20001015

ルポ 東京北区・荒川区
区境に出店狙う「ドン・キホーテ」

区を超えた連携で規制を


 「景気回復」がいわれるが、労働者はもちろん中小零細商店の困難は変わっていない。大店立地法施行にともなう大型店出店は、中小商店の経営難に追い打ちをかけている。条例などで大型店出店を規制し、地域経済や環境、商店街を守る運動が重要になっている。首都圏を中心に強引に出店を進める二十四時間営業の大型ディスカウントストア「ドン・キホーテ」の進出計画が明らかになり、地元業者らの反対が根強い東京都北区・荒川区を訪ねた。


 ドン・キホーテが出店を計画しているのは、JR山手線の田端駅に近いJRの所有地だ。
 ドン・キホーテの出店計画書によると、売場面積は、大店立地法による規制面積である一千平方メートルをわずかに下回る九八一・五平方メートルで、駐車場は百四十六台分。
 立地場所は行政上は北区だが、仮に半径二キロを商圏とすると、北区は二一%ほどに過ぎず、約五〇%は荒川区、ほかに文京区、台東区などの一部が含まれる。出店されれば、区のほとんどが含まれる荒川区の商店街に、深刻な影響が出るのは必至といえる。
 ましてや、ドン・キホーテはその横暴な進出ぶりで杉並区、横浜市などでトラブルを引き起こしている会社だ。
 田端駅前には商店は少ないが、隣接する荒川区には、予定地付近だけでも尾久銀座、熊野前、小台など六つ以上の商店街がある。その一つを訪ねた。
 ある商店主は、「ここの商店街も、昔は近所でいちばん繁盛していた。私たちの努力も足りなかったかもしれないが、後継者問題も大変だ。この上にドン・キホーテが来たら…」と、とまどいの表情だ。
 「ドン・キホーテはわざと区境を狙って出店してくるのでは。荒川は区商連が強いから、『行政上は北区』ということで逃れようとしているんだろう。実に汚い」と、怒りをあらわにする商店主もいた。「線路にはさまれた場所で、道路のアクセスは荒川区の尾久や西日暮里からの方が便利。商圏は五〇%でも、実際に売り上げで影響が出るのは、荒川区が三分の二になるのでは」ともいう。
 また五十歳代の薬局店主は、「不景気の上にこれ以上の出店があれば『魚が減る中で釣り人だけが増える』というものだ。漁業なら漁業権問題が起きるが、だれも『商業権』とはいわない。商店も長年、自民党に陳情すれば助けてくれるものだと思ってきたし、消費者にも『安ければよい』という風潮があるのが問題だ」と語る。「六割の商店が年商三千万円以下だし、夫婦共働きで年収四百万円以下が大部分。これでは『店をやめてパートに』と思って当然」ともいう。
 さらに、「流通機構がすっかり変わってしまい、うちのような零細店には売れ筋商品が入らない。出店への反対だけでなく、どうやったら商店街が生き残れるのかを皆で考えないとダメだ」とも。
 ドン・キホーテ予定地のすぐ南側(荒川区内)には、場外馬券売場建設の計画があった。この計画は、住民の闘いで中止をかち取っている。だが、ドン・キホーテ予定地は北区ということで、まだ目立った運動はない。「隣の区のこと」と、関心を示さない保守系議員もいるという。北区内では、勉強会など住民の動きが始まっているというが、相互の連携はこれからだ。
 この二〜三年、荒川区も例外なく、オリンピック、マルエツ、ライフなど大型店の出店ラッシュにみまわれた。さらに、セイフーは二十四時間営業を始めた。
 九七年の商業統計によると、荒川区は小売業の店舗当たり従業員数が三・九人と二十三区で最も少なく(二十三区平均五・五人)、年商も約五千八百万円と最少だ(同一億四千万円)。これは大型店も含めた数値で、いかに荒川に零細商店が多いかがわかる。また、荒川区小売業の四〜六月期の売上高は、前期比で二九%も悪化した(荒川区「二〇〇〇年度第一・四半期の景況について」)。 このような大問題にもかかわらず、荒川区政はこの問題では積極的に他区と共同対処に動くところまでには至っていない。議会質問を行ったという荒川区議は語る。「出店場所は北区でも、営業・生活・環境に影響があるのは荒川区。『他の区のことだから』と知らぬ顔はできないはずで、行政も区を超えた取り組みを行うべきだ」。区境を狙うなど、大型店の「戦略」も一枚上手で、従来の出店要綱などでの対処ではもう限界だといえる。
 高齢者でも気軽に歩いて行ける下町の商店街が、二十一世紀まで生き残れるかどうかの瀬戸際にきている。ドン・キホーテのような大型店の進出は、そうした危機を早めるに違いない。商店街に、政治の光を当てる必要性を感じた。


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