20000101


介護保険

社会保障切り捨て許さない(1)
負担が先行、サービスは不透明
延期し抜本的見直しを

あかね苑 中尾 元信事務長


 介護保険問題で政府は、保険料徴収の半年間延期などの特別対策を出し、国民の批判をかわしながら四月実施を強行しようとしている。だが、こうした政府の姿勢に対して、自治体や福祉現場からさらに批判の声が強まっている。昨年十二月十八日、東京で「矛盾だらけの介護保険で老後の安心が消える」と題した緊急シンポジウムが開かれた。その中で、新宿区立北山伏特別養護老人ホーム・あかね苑の中尾元信事務長が講演を行った。氏の了解を得て、講演内容を掲載する。


詐欺といわれても仕方がない

 介護保険の財源は保険制度でやることになった。つまり、負担と給付という関係になる。そこからもれる人、負担ができない人はどうなるのか。従来の社会福祉がかかわっていた部分をどうするのかという重大な問題がある。
 介護保険制度は、四月以降は契約という形に移行する。その内容がはっきりしていなければならない。
 われわれが思いもつかなかったような問題、例えば部屋が気にいるかいらないとか、いつまで入所できるのかなどという問題は保険対象外である。これは保険サービスだと、はっきり分けた上で、相手と納得の上で契約を結び、これでやりましょうとしなければならない。
 ところが、根幹の制度自体がよく分からない。しかも、昨年十一月の三党(自民、自由、公明)合意もどうもよく分からない。
 お金だけは取っておいて、供給できるサービスがはっきりしないというのは、詐欺と言われても仕方がない。
 例えば、市町村に聞いても、どれだけの業者でどれだけのサービスが提供できるか分からない。なぜなら、正式な介護報酬が決まっていないからだ、と言う。
 仮に要介護認定が行われたとする。認定されたとしても、どのくらいの給付が受けられるかという実感を持てる人はまずいないだろうと思う。しかしお金は取られる。
 二番目に、この制度が本当によいものなのかどうか。その中身を確認した上でものごとが進められるなら、それはそれで分かるが、どうもその辺が不透明で、とにかく四月にやろうと。

低所得者に重い負担

 厚生省は、保険料は自治体が取るという。自治体も実際は困る。介護保険を実施しようと一生懸命考えているが、保険料をそんなに上げるわけにはいかない。これも現実の問題だ。
 保険料は、介護報酬が最終的に決まった段階でもう一度計算し直さないといけないことになっている。しかもこれは自治体が決めることだが、三月議会ではたして通るかという問題がある。
 厚生省は、二千五百円程度をあまりオーバーするものを出されては困るということだが、介護基盤が整備されればされるほど保険料は上がるということになる。例えば今三千円だったとしても、二・五倍の七千五百円になる可能性をはらんでいる。しかも、保険料のところを触るのはどこの自治体でも恐れている。
 三番目に、保険料は低所得者には負担が多くなる。お金の少ない人からも、課税をされないところからも保険料だけはいただくというシステムだ。
 四番目に、保険は個人が単位のはずだが、お金が取れるところからは取ろうという考えで、世帯主には納付する責任があるとかね。ではそれに見合うサービスはどうなのかと言いたくなる。
 五番目に、厚生省は年金からの天引きを打ち出した。おかしいと思う。年金はいわゆる個人の財産だ。国が法律を決めさえすれば、個人の財産である年金から天引きが可能なのかどうか。厚生省は、天引きは事務の軽減だと言っている。国や自治体からみればそうでだろう。でも、基本的な考え方、個人の財産に手を出すなという、民主主義の流れはここから来ているわけで、事務が簡素化するからといって法律を通し、人の財布の中に手を突っ込んでよいわけがない。

やってはいけない介護保険

 政府の特別対策が決まった。私は皮肉っぽく三つあげたい。
 第一番目に、「おまけしておきますから」。半年は徴収しない。一年間は半額だよ。でも、そのあと取るんでしょう。あまりにも国民をバカにしていませんか。
 二番目に、「自分の懐は痛まずに」。この期におよんでも財源問題が出ている。昨年の十一月二十九日の全国課長会議で、実に異例のことだが、宮城県の代表が「政府が特別対策を打ち出したのだから、財源は政府が全額もつのかと思ったらそうではない。不満がある」と発言した。国が半分、都道府県が四分の一、市町村が四分の一ということで、何を言ってるのかと自治体の介護保険の担当者は頭にきた。
 次に、「間に合わせるために走りながら考える」を考えてみたい。どだい、走りながら考えてよい考えも浮かぶはずがない。ただただ間に合わせるために走っているという段階だと思う。あまりにも問題が多すぎる。
 最後だが、少なくとも、四月時点において制度が円滑に進む準備ができていると思えない。今流行の「買ってはいけない」ではなく、「やってはいけない」のが介護保険だと思う。


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