北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が7月9〜10日、米国のワシントンで行われた。各国首脳に加え、ウクライナのゼレンスキー大統領、また米国がインド太平洋のパートナー国(IP4)と位置づける日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドの首脳も招待された。
採択された首脳宣言では、ウクライナのNATO加盟を「不可逆的な道」と明記、2025年に400億ユーロ(約7兆円)を資金供与することも盛り込んだ。またインド太平洋でのIP4との協力拡大や加盟国全体での軍需産業強化などもうたった。
今回の会議は、NATOの中心である米国でウクライナ支援に消極的なトランプ前大統領が大統領選を優位に進めるなか、あるいは欧州各国でウクライナ支援に消極的な右派が台頭するなか、開催された。ウクライナへの支援継続をアピールすることは今回の会議の最大の眼目で、会議ではかろうじて「支援継続」がつくろわれた形となった。
しかし、トランプ氏が欧州各国に軍事費のさらなる増大を求めているように、「ウクライナ支援疲れ」や物価高騰を背景に、今後NATO内で不協和音が拡大することは避けがたい。NATO弱体化のすう勢を押しとどめるどころか加速させた様相となった。
* * *
このようなNATO首脳会議に、岸田首相は「パートナー」として3年連続で出席した。
岸田首相は、「欧州大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分」として、NATOとIP4の連携をより強固なものとすることの必要性を訴えた。
採択された首脳宣言では、中国を「ウクライナへの侵略を続けるロシアの決定的な支援者」などと批判しているが、このような内容を盛り込むに当たって、水面下で日本政府が各国に血道を上げて働きかけたという報道もある。
だが中国は、グローバルサウスの多くの国と同じように、ウクライナとロシアに対しては中立の立場を堅持している。米欧と歩調を合わせて対ロ制裁に参加していないから批判するなどというのは身勝手で的外れな言いがかりだ。
こうした理由をつけて中国敵視をあおりNATOをインド太平洋に拡大させようと画策する日本政府だが、インド太平洋に対立と軍事的緊張を持ち込む犯罪的な外交だ。
しかしその策動も、NATO加盟国がお膝元のウクライナ支援でさえ出し渋るなか、アジアで中国と軍事的に対峙(たいじ)するために身銭を切ることは考えにくいため、中国に対し「NATOの威を借りる」以上の意味が生まれる見込みはない。岸田外交が徒労に終わることはすでに目に見えている。