991205


このごろの言葉

ドラフト会議

高山 のぼる


 今年もプロ野球の新人を選ぶドラフト会議が開かれた。昨年、話題になった松坂ほどのスター選手はいないが、マスコミは華やかに会議の様子を伝えた。
 この会議を日本では新人選択会議と呼んでいるが、アメリカで考え出されたドラフト( draft )のもともとの意味は徴兵である。
 ドラフトの後にビールをつなげて draft beer と書くと、生ビールとなる。徴兵とビールとは関係ないように思えるが、ここでのドラフトは樽のなかにたっぷり入っている酒を必要な分だけ注ぐということで、若者を戦場へ送り出す徴兵は、樽から酒を注ぐのと同じことだったのである。
 さて、ドラフト会議である。日本野球機構はこう説明している。
「ドラフト制導入以前の新人補強は、自由獲得競争でした。どの球団も実力のある魅力的な選手を欲しいわけですから新人選手争奪戦は激しくなる一方。それに連れて新人選手獲得にかかる費用(契約金、スカウティング費用、人件費)も高騰する一方でした。このため一部の球団を除いて多くの球団が財政的な危機を迎えていました。
 人気があり資金が豊富な球団は実力のある新人選手を集めやすい。しかし特定の球団だけが戦力を増強してしまえば、優勝争いもなくなりペナントレースの醍醐味が失われてしまいます」
 自由競争だと、人気があり資金が豊富なチームにだけに有能な選手が集まり、人気のないチームはますます弱くなってしまうから、プロ野球全体のことを考えて自由競争を制限する保護政策をとったのである。
 しかし、新戦力の平等な配分という保護政策に対して、力のある球団は不満を持ち「本人の希望を尊重すべきだ」という自由競争の原理を持ち出してくる。これが逆指名という名の規制緩和である。
 新人の側から希望する球団を表明できる逆指名は大学生と社会人に限られているが、逆指名を得るために各球団は水面下で金や人脈を使って根回しをしている現実があるという。逆指名が本人の意思なのか、それとも根回しの成果なのか、マスコミが伝える結論からは判断できない。
 規制緩和という自由競争と保護政策の間で、制度が揺れ動いている。しかし、自由競争に規制をかけようとする保護政策も、選手個人の希望を尊重しているわけではない。あくまで、弱い資本力しかもたない球団が、大資本の横暴を止めようとしているだけだ。まさに、資本主義そのものである。
 六〇年安保闘争の頃、長嶋茂雄が「もし日本が社会主義なったら」という問いに、「野球がやれなくなるからいやだ」と答えたという。さしたる深い意味はなかった答えだと思うが、さすが長嶋、なかなか本質をついた見識である。 


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