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かってな校区変更はやめて!

母親たちが機敏に署名運動

稲村 良子


 私が住む地域は、三十年ほど前に大きな団地が建てられ、人口が急増しました。団地内の小学校は子供の急増に対応できず、親の反対を押し切って校区を変更しました。そして、子供たちは、近くのいくつかの小学校にバラバラに転校させられました。二十年ほど前のことです。
 しかし、子供たちが成長して巣立っていった現在は、高齢者が多数を占める地域となっています。かつてのマンモス小学校は、今は一学年一クラスしかなく、まるで過疎地の学校のようになっています。
 私は団地に住んでいますが、こうした経過から、子供は団地の外にある小学校に通っています。ところがある日突然、私たちの地区の子供たちだけが、団地内の小学校に強制的に転校になるという話がもちあがってきました。団地内の小学校は児童数が減る一方で、このままでは廃校になる。なんとか存続させようとしたPTAが、児童確保のために、校区変更を働きかけたものでした。
 子供たちも親たちも、この話にびっくりしました。子供たちも「友だちと離ればなれになるのはイヤだ。なぜ転校しなくてはならないのか」と不安でいっぱいです。さっそくお母さんたちが声をかけあって集まりをもちました。「子供はモノじゃない。学校の都合でたらい回しはひどい」との声があいつぎ、とりあえず「在校生の転校はさせない」ということで署名活動をすることにしました。
 お母さんたちが二人一組になって、署名用紙をもって回りました。回ったところでは、ほとんどの人が快く署名してくれ、「私の子供も、むりやり転校させられたときは泣きながら学校に行った。今度は子供が減ったから戻れなんて。こんなお役所仕事は許せない」と激励してくれました。二十年前の学区変更の苦い経験が、地域の人たちの中にしっかりと生きていたのです。署名は短期間に多数集まりました。
 こうした動きが役所や学校にも伝わったのか、結果的には、在校生については学区変更はしない、兄弟がいる場合は学校を選択できるということになりました。同じ地域に住みながら、子供たちが二つの学校に通うという状況をつくってしまったのは残念ですが、日ごろ話す機会の少ないないお母さんたちともいっしょに行動できてよかったです。ささやかな経験ですが、みんなの声を集めることで「なにかが変わる」ことを実感したできごとでした。 


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