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書籍紹介 バブルファンタジー

あの金で何が買えたか
公的資金投入の実体描く

(村上龍著)


 この本は、色彩豊かな温かみのある絵と、短いコメントでつくられた絵本だ。テーマは「あの金」。小渕内閣が銀行救済のために気前よくバラまいた「公的資金」と、銀行がかかえる「不良債権」のことである。
 政府が九九年三月に都銀や信託銀行など大手銀行十五行に投入した「あの金」は七兆四千五百九十二億円。銀行の不良債権は八十兆円ともいわれている。私たち庶民がその数字ををみるとき、あまりにケタが多すぎて頭は思考停止してしまう。でもちょっと待って。それでいいの? 「公的資金」は私たちの税金。どのくらいの価値をもつものなのか知ることが大事。だったら同じ金額で何が買えるのかイメージしてみよう、というのがこの本だ。
 内容を紹介しよう。銀行ごとに公的資金投入額が書かれ、その金額で何が買えたかが描かれている。たとえば、第一勧業銀行に九千億円の公的資金投入=スフィンクスの修復三億三千七百五十万円、途上国の子供すべてに基礎教育八千四百億円、アフリカ象保護プロジェクト二十四億円、おつりが約五百七十二億円。
 富士銀行に一兆円の公的資金投入=銀座のホステスを愛人にして十億円、CNN(米国のテレビ局)を買収して九千六百億円、自然共生研究施設建設で百四十億円、おつり二百五十億円。
 日本長期信用銀行債務超過額二兆六千五百三十五億円=ヤフー(インターネットの検索会社)の買収八千四百億円、リサイクルのためのごみ分別処理を全国に建設一兆四千五百億円、敬老の日にすべての老人を寿司屋に招待(一人一万円)二千億円、沖縄基地撤去のためのインフラ整備千三百億円、おつり三百三十五億円…といった具合だ。
 発想がユニークでわかりやすく読める。ちなみに、毎日百万円使ったとして一兆円を使いきるのに何年かかるでしょう。答えは二千七百年!
 著者の村上氏は「この絵本は『知る』ためのものである…もし巨悪が存在するとして…大衆が真実を『知ること』のほうが彼らにとってはやっかいだと思う。具体的に、実感として、何かを『知る』と、私たちはそのことについて考え始める」と書いている。またこの本にはエコノミストの植草一秀氏と村上氏の対談が掲載され、バブルと不良債権のしくみが解説されている。
 私はこの本を読んであらためて怒りがわいてきた。私たちの税金がムダに使われている。そのうえ政府は介護保険料まで徴収しようとしている。なんてことだ! 自民党が庶民の敵で、財界のために働く政党だということを事実で示している。
 小渕首相は先のことなど考えることもなく国債を発行し続けているが、いまやその発行残高は四百兆円に迫ろうとしている。この天文学的な数字のもつ重さを、一番知らないのは当の政治家たちかもしれない。いや、彼らは一円玉一個がもつ生活上の価値も、まったくわかっていないのかもしれないけどね。  (U)
(小学館発行・本体価格千五百円) 


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