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商社はドロボー船から買うな

マグロ漁業者の怒り爆発

海野ひろし


 宮城県気仙沼市で十月二十四日、千人の市民が集まり長さ二百四十五メートルの鉄火巻きをつくった。ギネスブックに申請するという。それまでの記録は、静岡県清水市が五月に作った二百四十一・五メートル。気仙沼と清水、二つの港が鉄火巻きの長さを競っている。
 鉄火巻きは、いうまでもなくマグロである。気仙沼はまぐろ漁船国内最大の基地。清水は冷凍マグロ水揚げ日本一の港。気仙沼と清水は、ともに日本を代表するマグロの港なのである。
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 港に水揚げされるマグロは大きく五種類に分かれる。一番高値のクロマグロ。これによく似たミナミマグロ。スーパーなどで手頃な値段で売られているのがメバチマグロやキハダ。ビンナガは刺身には向かないが、それを逆手にとって大成功したのがシーチキンである。
 世界のマグロ水揚げ量は年に約百三十万トン。日本船の水揚げは約二割の三十一万トンだが、輸入量と合わせると世界中のマグロの半分を日本人が食べていることになる。なかでも、トロに高値がつくクロマグロとミナミマグロの約九割、つまりほとんど全部が日本で食べられている。
 高値がつけば、どんどんとる。これに対し乱獲を規制する動きがある。マグロの漁獲枠を決めているのが大西洋マグロ類保存国際委員会(ICCAT)で、日本をはじめ二十六カ国が加盟している。
 しかし、これに加盟しない国には規制が届かない。そこで、船籍だけを移して操業する船が現れてくる。これが「便宜置籍漁船」、別名「ドロボー船」である。
 その数は約二百四十隻で、大型マグロ漁船の一割以上にもなる。船籍はホンジュラス、ベリーズ、パナマなど中南米が大半を占めるが、船を経営しているのは八割が台湾資本という。
 そして、このドロボー船からすべてのマグロを買っているのが日本の商社である。正確にいえば、商社が買うから違法行為をする船が現れるのである。
 日本には九六年に議員立法で成立した「まぐろ資源の保存及び管理の強化に関する特別措置法」(マグロ法)があり、国際機関の管理に従わない国からの輸入を制限していることになっている。が、これは制限とは名ばかりのザル法であり、ドロボー船からの輸入は公然と行われている。
 九月二十八日、清水港に全国から四百人のマグロ漁業者が集まり、ドロボー船の廃絶を訴える決起大会を開いた。翌二十九日には、世界最大のマグロ業者である三菱商事の本社前に座り込み、ドロボー船との取引中止を訴えた。
 水産庁は十一月上旬から輸入実態を調査し、ドロボー船からの不買を指導するという。しかし、指導するぐらいで商社が取引をやめる程度の話なら、誰も問題になどしない。
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 今年の春、国内のまぐろ漁業者は国連食糧農業機関(FAO)の規制にあわせて、六百六十三隻のマグロ船の約二割、百三十隻の減船を行った。内訳は、北海道九、岩手四、宮城三十八、福島十九、神奈川八、富山一、静岡八、三重三、和歌山九、高知十九、鹿児島十二。
 百三十隻の乗組員が一度に職を失った。関連業者や、修理点検を請け負う造船所への影響は計り知れない。気仙沼を母港としている百六十三隻の内、六十隻が減船の対象になった。
 九月の総決起大会で、まぐろ船主はこう訴えた。
 「われわれは資源を守るため、仲間を二割減らした。だが商社は便宜置籍漁船と公然と取引を続け操業を支えている。反社会的な行為は許しがたい」
 漁業者に減船をさせる一方で、商社の違法を黙認する。これがわが国の水産行政なのだ。


【余談】
 伊豆の料理に「まぐ茶」(まご茶)というのがあります。しょう油に少し漬けて味がなじんだマグロの刺身を、あつあつご飯のなかに入れ込んで少し蒸らしてから、お茶漬けで食べるというものです。漁師が船でよく食べていたといいます。わさびをすこし利かせて食べると、けっこういけます。お試し下さい。 


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