991025


対象者にしつこい「協力要請」
無念さ胸に仲間が退職

労働組合は知らんぷり

電機労働者 児玉 智秀


 この十月をもって、「俺は辞めないよ」と言っていた一人の男が退職する。六十歳の定年まであと五カ月を残しての早期退職である。彼にはまだ大学二年の息子がいる。六十歳から年金が支給されるとはいえ、その間を失業手当と若干の早期退職による割増金で食いつないでいかなくてはならない。無念である。彼はこう言った、「送別会はやってもらわなくてけっこうです」と。
 今回の人員削減では、二〇〇〇年三月までに、総人員の一割にあたる三千人強を減らすことになる。この中には、幹部社員も七百人ほど含まれるが、一般社員では五十九歳、五十八歳の人への定年一年前倒しによってなされる。
 組合は「あくまでも本人の意思が優先するとの確認でもあり、会社が対象者への定年前倒しの協力要請を行うことは労働協約に抵触しない」との立場をとっている。そのため組合のほうから対象者への説明もなく、また退職条件の引き上げ交渉もしていない。
 多くの対象者は相談するところもなく、またそれ以外の人にとっては他人事となり、「辞めない」と言いにくい雰囲気がつくられてしまった。「俺は辞めないよ」と言っていた人も、「あなたの協力で会社が立ち直れる。残った従業員が救われる」との度重なる執ような『協力要請』に音(ね)を上げてしまった。ほとんどの対象者が早期退職に合意してしまった。
 プライドを傷つけられるのだ。バリバリの現役とはいかなくても、これまで幾多の苦難を乗り越え、会社の発展に尽くしてきた自負があるのだ。それを「あなたが辞めることが一番会社にとって望ましいことなのだ」と告げられる。なんとも悲しいことではないか。
 この原稿を書いている最中にも銀行の大型合併、それにともなう大量の首切り、そして日産の大合理化の発表。労働組合からの反攻はないのか。連合は何をしているんだ。 


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