991015


イチローの何でも調査団

第1回 みやこ金融物語

京都 近江 一郎


 全国の労働新聞読者の皆さんお元気ですか。暑い九月でしたね。
 さて京都といえば、皆さんは何を思い浮かべますか。金閣寺や嵐山に八ツ橋ですか? それともベンチャー企業の雄として名高い「京セラやオムロン」などでしょうか…。これらは「今は昔」です。今の京都で幅をきかせているのは、サラ金と商工ローンです。
 その代表が、あのアイフルと日栄です。前者は今年上半期の京都の企業売り上げランクで任天堂についで第二位、日栄は第五位で、全国の業種別では前者が第三位、後者がダントツの第一であり、堂々と全国区の顔です。
 なぜ京都にこれらの業種が成長し君臨しているかと考察(?)すると、京都は戦後、独自の金融行政を府、市ともにとってきたからです。地元金融機関の育成に努め、地元信用金庫の一般預金量の多さと都市銀行の設置数の少なさ(対人口比)は、政令都市ではどちらも日本一でしょう。
 なぜサラ金業、今話題の商工ローン業が特に京都で伸びたかは、右記のこととまったく無関係ではありません。
 京都はいわゆる大企業と呼ばれるものは少なく、中小、それも家族経営の企業が圧倒的に多く、その代表が西陣織関連です。七〇年の万博の頃までは花形産業でしたが、このバブル崩壊と阪神淡路大震災の影響で、見るも無残に解体しつつあります。
 そんな家族経営への融資には、都市銀はおろか地元信金さえ貸し渋り、行く着く先はサラ金、商工ローンとなるのです。それらのカネの配給元は大手都市銀で、特に京都では店舗数が少ない分、サラ金、商工ローン業者に貸しつけて荒稼ぎしている構造なのです。
 私の知人である不動産屋さんは、バブル前までは若手経営者として業界では知られていました。社員も二十数人いましたが、やはり先が読み切れず、バブル崩壊とともに今は一人細々と営業を行っています。
 彼がいつも愚痴るのが「すべて銀行と政府、官僚が今の不況を招いた」と。バブル期は、自分自身でもおかしいなと思うぐらい、わずかの土地でも銀行側から使ってくださいと数億円の融資をつけてくる。それらに踊らされたのが不動産取引で、それにのった企業が全てつぶれているのが現状です。その反動として、またぞろ金融界は貸し渋りという策に出て中小経営者の首を、実際的にはサラ金、商工ローン業者に本当に首を締めつけさせているのです。自らは手を汚さない大手都市銀行の姿勢は、いつになっても変わっていないのです。
 前出の不動産屋さんと屋台で飲みながら、彼いわく、「景気が底をついたと言っているが本当ですか? いろいろと税優遇措置をしても、庶民にとっては先行き不明で、一時に比べ土地が安くなったといえ、まだまだ家など買えないと言っていますが…。マンションが売れているというのはウソで、政府の宣伝だということが実感として肌で感じる。自分の仕事もいつまで続けられるか不安だ…」と、ため息まじりでした。サラ金、商工ローンの利息は法外だが、もっとひどい金利の業者が蔓延(まんえん)していると、これらも政府が無策であるからだと吐き捨てるように言い切り、この現状を堺屋経企庁長官に見せてやりたいとつぶやいていました。
 いま祇園は坊主とサラ金、商工ローン業界の人びとでにぎわい、われわれ庶民は屋台はおろか、カップ酒片手に鴨川の土手で虫の音をつまみに、ささやかに世の不満を胸に思い、いつかわれわれの時代の実現をと確信して夜空を見上げているのです。
 これが多くの日本の現状であり、京都の実態です。 


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