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農業つぶしで広がる休耕田

農家がコメを買う!?

徳島・農民 松本 治夫


 私は四国で、コメと花をつくっている農家です。稲刈りがすんで、もうすぐ、ハウスの張り替え(冬の準備)です。今年の夏の暑さは、ハウスで仕事をしていると頭がボーッとしてくるぐらいで、四十四歳の身体にもこたえました。
 稲刈りは農協委託といって、各農家が稲刈り希望日と反数(面積)を農協に提出し、それを農協が、大型機械を持つ農家や農業組合法人にとりつぎ、反あたり数万円で刈り取ってもらうわけです。
 なにせ、田植機、コンバイン、乾燥機など一式そろえると数百万円はかかり、とても採算が合いません。おまけに今年はコメ余りで、まだ最終的な農協売り渡し値段が未定で、「仮渡金」という形でしか支払われていません。昨年は、九月上旬出荷で、コシヒカリ一等米三十キログラムあたり九千円で、今年は確実にこれを割るだろうといわれています。
 小規模の稲作農家は、委託が増えていますが、委託を引き受ける方も、ばく大な投資(委託を受けるぐらいの機械や設備だと二〜三千万円ぐらいかかるそうです)をしてもこのまま米価が下がり続ければ、コメづくりそのものをやめてしまうおそれがあるのです。
 今、農村の主力は五十〜六十歳代(戦後の食糧増産時代に就農した世代)で、その次の世代は、勤めに出て、給料は上がらず、ボーナスカットとなり、コメづくりにカネをつぎ込むぐらいなら、いっそコメづくりをやめてコメを買った方がましだと考えている者も多くいます。 
 かつて、タイ米が入った時に大騒ぎしたのもすっかり静まりしたが、今後十年たったら、つくる者のいなくなった荒れ田が全国に広がって、また騒ぎだすのかもしれません。国際標準とかで、カリフォルニア米に対抗できる価格になった時、耕作放棄田が全国に広がっているのではないでしょうか。
 農業の崩壊が静かに広まっていることを知っていただきたく、つたない文章ですが、一文を寄せます。 


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