本映画は、一昨年大問題となった、金融機関による総会屋への不正な利益供与や大蔵官僚への過剰接待問題など、実話をモデルとしたビジネス映画である。
* *
朝日中央銀行(ACB)が総会屋に三百億円の不正な利益供与を行っていたことが明るみに出た。しかし、検察の強制捜査が始まっても、佐々木相談役(仲代達矢)を中心とする経営陣には、まったく危機感がない。政治家との太いコネがあるからだ。
佐々木の娘婿である北野(役所広司)やMOF(大蔵省)担当の片山(椎名桔平)ら中堅幹部四人は社内調査委員会を組織し、「ACBの再建」に乗り出す。しかし、役員のほとんどは逮捕され、「絶縁」を宣言した闇(やみ)社会からは「報復」の手が伸びる。そして、一般株主と総会屋が入り乱れた株主総会が始まった…。
MOF担の大蔵官僚への接待、検察と外資系マスコミの連携プレー、疑惑の渦中の役員の自殺、銀行員独特ともいえるおじぎの仕方にいたるまで、なかなかリアリティーのある場面が多い。俳優はしっかりしているし、話の展開もスリリングだ。何より、「呪縛」というタイトルをはじめ、セリフのはしばしに現実に使われた言葉が使用されているのが、そう感じさせるのだろう。
* *
解説者によると、この映画は「日本再生」をめざすビジネスマンにエールを送る映画だという。
だが、北野ら四人が自らを「四人組」と称し、調査委員会室の壁をレーニンや毛沢東の写真で飾ったとしても、それは一銀行にとってはともかく、国民生活とどれほど関係があるのだろうか。
映画は、ほとんどが東京の日比谷公園周辺で撮影されている。実際、検察庁、大蔵省、大手金融機関の本店など、すべてが日比谷公園を中心に立地している。その意味では、腐敗やスキャンダルも、実に狭い地域の中で起きていることがわかるのだ。
映画は、再建されたACBの頭取秘書となった北野が、元役員の墓参りをするところで終わる。しかし現実社会ではこの後にこそ、そして今も、バブルに踊った金融機関の尻ぬぐいに、国民の血税を投入しているという問題がある。金融機関や日本社会が「呪縛」にとらわれているのだとすれば、それは闇社会との関係だけでなく、国民の税金で自らの経営責任を処理しようという姿勢、制度そのものではないだろうか。
ACBの正面玄関と役員室に置かれた、狼の乳を二人の双子の兄弟が飲むローマ時代の彫刻が印象的だ。神話によると、この双子の兄弟がローマを創設したという。大企業と闇社会は、国家によって保護され、国民の生き血を吸って現代日本をつくりあげた双子の兄弟であることが暗示されているように思える。そこに手をつけてこその「日本再生」であろう。
映画の最後に、「ローマ帝国を滅ぼしたのは、皇帝の側近たちであった」というモノローグが流れる。否! スパルタカスの反乱に代表される、人民の闘いこそが底流にあったのだ。
映画の随所で、日比谷公園のホームレス労働者が登場する。彼は、右に左に走り回るマスコミや銀行員、検察らをよそに、クラリネットを吹きながら公園内をうろつくのだ。その音色に踊っているものこそ、この映画に描かれた現実そのものではないだろうか。(K)
Copyright(C) The Workers' Press 1996-1999