990915


おいらはリストラ予備軍

「退職届は社内パソコンに」

自動車工場労働者  中村 邦夫


 小型自動車の販売が好調とやらで、一部の工場では生産に追いまくられており、労働組合の大会議案書でも「景気に薄日が射している」と経済情勢を評価している。技術部門では「環境」をキーワードに省エネ車や電気自動車の研究開発に忙しいと聞く。マスコミはこうした自動車メーカーの新車発表を二十一世紀への希望のように扱い、いまだに自動車産業が花形産業のように思っている人も多いかも知れない。しかし、そこで働いている労働者は大変なんだ。

ラインを横目にのんびり仕事

 私の働いている工場では、仕事が目に見えて減り、ここ数年ほとんど残業もない。仕事の一部は海外に移転し、労働者は他工場や他部門へ転属されて一割以上も減ってしまった。転属される労働者は中堅層ばかりなので、残されるのは高度成長期に入社した中高年層が圧倒的に多いのである。

 残された者の仕事は「カイゼン」である。4S(整理・整とん・清潔・清掃)と呼ばれる大掃除から始まり、機械や工場内の歩行帯のペンキ塗り、部品棚などの製作が主な仕事だ。

 それでも、すぐ横のラインはフル稼働でまわっている。ラインの労働者はのんびりペンキ塗りをする私たちを時々うらやましそうに見ている。この会社では、どんなに暇でも忙しい労働者の作業を手伝ってはいけないことになっている。

 作業者がたまらずラインを止めることによって、そのライン作業の問題点が明らかになるのだという。しかし、ラインを止めれば職制から怒鳴りつけられ、職場ごと賃金カットされるのだから、労働者はラインを止めまいと必死になって働くのだ。ここにこの会社が大もうけできる秘けつの一つがある。

 この会社の生産システムのお陰で、私は忙しいライン労働者の横で同僚と雑談しながらペンキ塗りをすることになるのだ。

「君は仕事をしなくていい」

 朝突然、組長に呼ばれ「君は今日から仕事をしなくていいよ。技能練習をしてくれ」と言われた。何のことかと聞いたら、仕事が当分ないから、工場の隅っこでヤスリ掛けの練習をしろとのことだ。組長は廃材置場から鉄の角材を持ってきて「これをやすり掛けしろ」という。技能練習とは聞こえは良いが、体のいいリストラ予備軍だ。その角材で頭をドヤしてやりたい衝動にかられたが思いなおして、その怒りと力をその後ろの大きな敵のために蓄えておくことにした。

 その日の会社の通達文書には「十月より退職届は社内のパソコンから出せます」とあった。とうとう、そこまで来た。


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