990915


漫談師 イリヤ藤沢さん

会社生活の中でネタためる

リストラを笑い飛ばそう


 漫談師のイリヤ藤沢さんは、サラリーマンや労働者の仕事・リストラなどを材料とした漫談で人気上昇中だ。イリヤさんのネタは、会社生活の中から生まれたという。イリヤさんの漫談がうけているのは、労働者の生活の真実が語られ、彼らの本心・リベンジ(復讐)の気持ちが込められているからであろうか。

「キミはやる気があるのかね。成績はいつも最低じゃないか。配属されたときはデキる社員と言われていて期待していたのに何なんだ」
「期待にはこたえておりませんが、体にはこたえております」

Q これは面白いですね。ネタはどのように仕入れているのですか。

藤沢 私のネタは無理に仕入れているんじゃなくて、私自身の普通の会社生活の中で、新聞を読んだり、仲間と話している中で思いつくまま手帳に書きためられたものです。

 三十二歳のときにつくり始めて、いままでノートに載せてきたのが、千百九十二あります。会社の行き帰りの電車の中で考えたりしました。最初のヒントはどこにでもありますから、手帳とボールペンだけは離しません。最近は出番が増えて忙しいので、つくるペースが落ちています。

 ネタもランク分けしていて、オヤジ同士のダジャレ程度なら、それは「Dネタ」。私がそれに導入部を乗せて、うまくできなかったのが「Cネタ」で、これらはノートに載せません。導入部を持ってきてさらに面白くなったネタについては「Aネタ」「Bネタ」として、分けています。

 たとえば、「期待にはこたえておりませんが、体にはこたえております」というネタを面白くするにはどうするかというと、社長と部下の会話にするわけです。

 導入部をつくることで、単なるダジャレがオチに変わるわけです。絶対の自信作は「A」にしているんですけど、ステージに出たら「B」の方がウケたりってことはあります。

 私はまだ会社を辞めて一カ月ですので、リストラされた人などに会ってネタをつくるというのは、これからです。

「おまえは最近、芳しくないようだな。私の言うことに正直に答えなさい」
「はい、正直にお答えします」
「そうだな、キミは役に立つ人間かどうか、会社としては非常に知りたいんだ。このリストラで」

24年間モーレツ社員だった

Q ネタに込めた思い、伝えたいことは何でしょうか。

藤沢 サラリーマンは、自分のいいところ、能力とかを競っているでしょう。ヘタにぼろを出さないようにして。その能力っていうのは、営業だったら「世間で恥ずかしくない」とか「品性がある」とか、とても堅苦しいものです。サラリーマンの現場っていうのは、「堅い・暗い・真面目」の三本柱ですから。そういう現場の中で、「少しでもスキやバカを見せちゃいけない」っていうものがあるんですね。私の場合も、根底的には真面目なんですよね。二十四年間ムキになって仕事をしてきました。

 私は小学校時代から人を笑わすのが好きだったのですが、それが会社に入ったら押し殺されちゃったんです。今思うと、それがネタ書きに向かわせたんじゃないでしょうか。ムキになって仕事をしてしまってつらい思いをして。その正反対のバカな面を出すっていうのは、風船をグッと押しつぶしたら横からどんどんはみ出して、その風船が本業と同じくらいに大きくなったようなものです。

 最近、サラリーマンが漫談師になったんじゃなくて、漫談師がサラリーマンをやってきたという感覚になっているんですね。かしこまって、しゃかりきになって、皆と競争して与えられた仕事するなんてことは好きじゃないし、縛られるよりも個性的に生きたいという人は、私だけじゃないでしょうし。

 今、テレビ局を含め、全国から出演の依頼がきています。労働組合からの仕事も入っています。

 要するに、私のネタは導入部はすごく真面目なことを聞かせておいて、オチはバカバカしいものが多いんですよ。

「おまえ、そんなバカなこと言ってるけど、前は期待したんだぞ」
「ありがとうございます。『将来の大器』とおっしゃっていただいていました」
「そうだったなぁ。それで、今度の異動で何になった」
「はい、『自宅待機』でございます」

「おじさん、海釣りで釣れる?」
「いや、これから首吊るんだ」

自分にとっての会社を考え直そう

Q 最近のリストラの増加などの状況について、どう思われますか。

藤沢 逆によい点としては、サラリーマンや労働者が話題なり、ある意味で主役になっているということがあるのではないでしょうか。バブルの時のようにみな金持ちだったら、海外旅行だとかが話題の中心で、サラリーマンが主役になることはなかった。だけど、生活が苦しくて大変だっていうので主役になっている。サラリーマンっていうのは、本来目立たない。それが目立っているので、本来、主張が通りやすい時代なのではないでしょうか。

 サラリーマンの社会は「堅い・暗い・真面目」ですので、どうしても深刻になります。いま「リベンジ」って言葉がはやってますけど、サラリーマンもそうじゃないでしょうか。さんざん高度成長の下で働いて、先が見えなくなった。会社って何なのか、考え直すいい機会だと思います。

 終身雇用も否定されていますけど、せめて子どもが大学を出るまでは保障すべきですね。

 リストラの現状にあきらめを感じている人びとに対しては、私の漫談を聞いて笑って下さいと言いたいです。

「藤沢さんの話は面白いから、明治時代のおじいちゃんとかは落語家だったんじゃないですか」
「調べたら、落語家じゃなかった。『落伍者』でした」

Q 芸名の「イリヤ」は、どこからとったのですか。

藤沢 学生時代のあだ名です。映画の「ナポレオン・ソロ」に出てくる、ソロの相棒の名前なんです。

Q 今後、どんなことをめざしたいですか。

藤沢 サラリーマンの人たちに「あの話は笑える」と言われるようにですね。

 あと、私の漫談を聞くのに、条件をつけようかとも思っています。サラリーマン生活三年以上、経営三年以上、サラ金に追われて三年以上とか(笑)。


本名・藤沢良信(ふじさわ・よしのぶ)

 五一年神奈川県生まれ。東京経済大学卒。大手靴店勤務、課長を経て退職。九九年七月に退職し、漫談師となる。


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