990905


枠を超えれば新しい世界が見える
心がつながれば大きな力になる

社会との関わり演じたい

コミュニケーション・ラボ21 大久保聖子


 劇団「コミュニケーション・ラボ21」は、日比混血児(JFC)と劇団員の若者の交流を描いた劇「マリーン」の公演を準備している。制作チーフである大久保聖子さん(東京女子大学三年)に、公演のきっかけや問題意識について聞いた。

Q 大久保さんの属している「コミュニケーション・ラボ21」について教えて下さい。

大久保 私が属している劇団は、五年ほど前、非政府組織(NGO)をやっている人などが集まってできました。もともとはある公演のサポートをしていたグループだったのですが、自分たちでも芝居をやってみようということで生まれました。

 五年前から毎年、集まってくるメンバー自身の中からテーマをとるような芝居を行ってきました。国際交流の活動をしているメンバーがいたので、フィリピンにスタディツアーへ行くという芝居をつくったり、フリースペースをつくりたいというメンバーがいると、スペースをつくるまでを芝居にした「僕たちの自由空間」という芝居をつくったり。堅い「演劇」っていうものをやるんじゃなくて、すごく自分たちに身近なテーマを考えて表現するというスタイルをとってきました。

 大きな芝居は自主公演というかたちで、十二月にやっていました。その他に、さまざまなフェスティバルなどで芝居を行っています。先ほどふれたスタディツアーの芝居は、あるNGOのツアーに参加したことがきっかけでつくられたのですが、そのNGO主催のお祭りでやらせていただいたこともあります。その他に、演劇ワークショップもやっています。

 今、私は「マリーン」の制作と役者をやっています。十月には東京、横浜、北海道での公演を予定しています。

現実に向かい合う若者を描きたい

Q 大久保さんご自身が、芝居を始めたきっかけは。

大久保 北海道のミッション系の高校に在学していたので、英語や聖書の時間に社会問題をテーマに勉強することがありました。いろいろな問題に関心をもちだしたときに、劇団「四季」の公演を見る機会があり、劇場というものに出会いました。

 普通の高校生活だと、頭で考えることが多くて、受験勉強に追われる毎日でしょう。劇場っていう場には、それと違って、心を動かすものがあるなって感じました。それで、社会問題を音楽とか芝居とか、心に訴えるもので表現したり伝えたりできるんじゃないかって考えるようになりました。その劇場っていう空間を自分の手でつくりたいと思うようになったんです。

 大学に来て、学生の劇団なども探したんです。身近な友人たちに来てもらうというものはたくさんあったんですが、芝居を通して何かをする、たとえば国際問題をいっしょに考えて、公演を見に来てくれた人たちとネットワークができていく、というような活動をしているところはなかなかありませんでした。学生団体の話も聞いたんですが、学生以外のところには手が伸びていかない。もっと広がりのある活動をしているところはないかと探していて、たまたま出会ったのが「コミュニケーション・ラボ 」でした。

Q 「マリーン」ではどんなことを表現したかったのですか。

大久保 脚本担当のメンバーが社会や政治の問題を扱っているフィリピンの劇団、PETAのワークショップに行って、そこでJFCの子どもに会ったことがきっかけです。

 子どもたちの話を聞き、フィリピン人の妻や子どもを捨てた日本人男性のことを知ったとき、彼は「自分はやっていないけれども、同じことをやりかねない」と、同じ日本人としてとてもイヤな気分を覚えたそうです。

 この「マリーン」は、JFCの問題だけを取り扱っているのではないんです。たとえば北海道の離農した農家のこととか、閉山になった炭鉱のことだとか、いろいろな問題を含めています。

 そういう問題に私たち現代の若者たちが出会ったときに、どういうふうに感じてどう動いていくのか、というところを描きたかったんです。

 JFCの女の子がもちろん主人公なんですけれども、劇団をクビになった五人の若者が「一発当ててやろう」と夢を見て、さまざまな問題に実際に対じしたときに、どう動くのか。そんな、この時代を生きる若者の姿を率直にを描きたい。

炭鉱労働者との出会いが転機に

Q 北海道でも公演をするそうですが。

大久保 JFCのことでも、捨てた日本人の父親には自分の子だという実感がないんですよね。私たちもJFCという言葉は知っていても、子どもたちの気持ちは分からなかったり。実際、私も北海道の出身ですけれども、離農した農家とか炭鉱のこととかは、十八年間北海道に住んでいて全然知らなかったんです。

 そういうことが身近にあるはずなのに、自分はそういうことを全く知らず、知ろうともしなかった。見ようともしなかったということにすごくショックを受けました。前回の公演のとき、私は一役者だったのですが、自分自身ショックを受けた状態で終わってしまったんです。

 それで、「このままこの『マリーン』を終わらせてしまうのは気持ちが悪い。もう一度やりたい」と私が言い出したんです。せっかくやるなら劇の舞台になっている北海道で、ということになりました。でも、故郷だといっても公演をするようなツテがあるわけではないので、まわりの人には反対もされました。

 北海道出身ですけど、生まれた町しか知らない。頼るものもなかったんですが、北海道新聞の「人」欄で取り上げられて、北海道の方から「北海道に来るなら応援します」という電子メールが来たんです。

 その方にいろいろ紹介してもらって、真冬の北海道を車や飛行機で二十カ所くらいをまわり、「北海道ってこんなに広かったのか」って思いました。芝居小屋などでは「不況だから」とか、「もう演劇の公演なんてできない」「手いっぱいで外部の劇団呼んでなんて無理」と冷たくされたりもしたんです。でも、「やりたいんです」って言い続けていると、その芝居の中身とか趣旨とかだけじゃなくて、私が実際に北海道を旅してまわっているということに共鳴して、応援しようという仲間が集まりはじめました。それで、札幌と函館、歌志内で公演ができることになりました。

 劇中の五人も、JFCの父親探しと自分たちの公演の両方で、北海道を旅するんです。そして最後に、メンバーの女の子が生まれた旧炭鉱町に行く。その町にたどり着いて、炭鉱労働者の人たちが出てくる。自分たちが九州の三池炭鉱から流れてきたこととか、昔の運動の盛んな時の話をするんです。でも、若者たちにはわからない。労働用語が飛び交っていたりして、ポカンとしている。でも、意気に感じてくれて、「そうか、わざわざ北海道まで来たのか」っていう心の交流ができ、公演ができるようになりました。

 私も実際に、炭鉱労働者の方に取材に行きました。もちろん本は読んでいったんですが、その時代を生きた人たちにとっては、過酷な労働や闘いが日常だった。すごく大変そうなことも淡々と話している。それと、「この北海道の基礎は自分たちがつくったんだ。この日本をつくったのは自分たちなんだ」という話を聞かされたときに、自分はその人たちに生かされているんだなって感じました。その後で「君たちは何でもできる」って言われて、「次の日本をつくっていくのは私たちなんだ」って、実感として思えました。

 国労や北海道教組の方とも会いました。すぐそういう話をわかってくれるんですね。すごくいろいろなことに目が開かれているなと思いました。社会への意識を持つことで、感覚が繊細になっていくのだろう、と思いました。

Q 同世代の仲間たちに対して言いたいことはありますか。

大久保 世界のいろんな出来事って、みなどこかでつながっていると思うんです。炭鉱労働者の方の話を聞いてもそう感じました。時代の移り変わりの中で、国策で切り捨てられてきた人たちがいる。JFCという子どもたちも、移住労働によってつくられ、切り捨てられた存在です。

 社会問題や環境問題もいっぱいあるじゃないですか。私たちは情報の洪水の中にいて、問題の存在は知っているけれど、何もできない。見ないように、聞かないようにして生きているんじゃないかな。卒業したら普通のOLになってしまう。革命を起こして「みな参加しよう」っていうのは、なかなかできないと思うんですけど、でも、私たちが社会問題に取り組んでいかなかったら、誰も何もしてくれない。そういう責任感のようなものを、実感として今の世代の中でつくっていかなければと思います。

 一人ひとりにできることは限られていているし、得意分野もあるけれど、いっしょに動いているんだっていう関係をつくっていきましょう、と言いたいですね。私はそれを劇場というツールをつかって、みなが集まり、心を一つにすることを目指したい。

 私のまわりを見渡してみると、たくさんの若い人たちが新しい「何か」を探して動き出そうとしています。しかし、私も含めて、どうしても自分の興味の範囲、狭い枠の中で考えてしまいがちです。枠を超えて手を伸ばせば、必ず新しい世界が見えてくるということ、そして、心と心がつながれば必ず大きな力になっていくということをみんなに知ってほしいと思います。私自身、いろいろな人に会って、私たちに今どういうことが求められているのかを考えていきたいです。


マリーン

(あらすじ)

 ツカサたち5人は、ある劇団の落ちこぼれ俳優。それぞれ理想や夢をもってレッスンに励んでいたのだが、クリスマスイブの夜、突然劇団をクビになってしまう。行き場を無くした5人は「サンパギータ」という壊れた看板のかかる空き家に迷い込む。ホームレス風の男が現れ何かを呼ぶと、暖かな部屋、そしてマリーンという可憐(かれん)な女性が出現する。

 マリーンは、フィリピン人ママと日本人男性との間に生まれた娘。すっかりマリーンに魅せられた5人は、行方不明になっているマリーンの父親探しを手伝うと約束してしまう。そして、自らも劇団を結成して一旗あげようともくろむ。

 彼らはマリーンの父親を探し、北海道へと流れていく。父親探しも進まず、芝居の上演もままならない中、5人は20世紀を生きたさまざまな人たちと出会う。

 やがてマリーンの父親との再会の日が訪れる。その時、不条理な舞台空間の向こうに彼らが見たものは…。

(公演日程)

●10月2日(土)〜3日(日)

2日:15:00〜 19:00〜、3日:14:00
会場:現代座ホール(JR中央線東小金井駅徒歩12分)

●10月9日(土)〜11日(月)

9日:19:00〜、10日:14:00〜、11日:14:00〜
会場:琴似日食倉庫コンカリーニョ(札幌市・JR琴似駅徒歩1分)

●10月13日(水)18:30〜

会場:歌志内市公民館(北海道歌志内市)

●10月15日(金)18:30〜

会場:函館市芸術ホール(函館市五稜郭公園前)

●10月30日(土)〜31日(日)

30日:14:00〜 18:00〜、31日:14:00〜
会場:スペース・オルタ(新横浜駅徒歩6分)

前売券 2000円(歌志内公演のみ1000円)
チケット取り扱い
・コミュニケーション・ラボ21
・チケットぴあ 03−5237−9988

コミュニケーション・ラボ21
〒184−0003 小金井市緑町5−13−24
TEL/FAX 042−380−7763


Copyright(C) The Workers' Press 1996,1997,1998,1999