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映画紹介

ホーホケキョ となりの山田くん

スタジオジブリ作品、高畑勲監督


 昨年、話題作「もののけ姫」をおくり出したスタジオジブリの最新作は、なんと、いしいひさいち原作の「となりの山田くん」。

 原作を知っている方には説明するまでもないが、原作は山田一家五人を主人公とした新聞連載の四コマ漫画である。しかも、笑いの質は関西系のベタベタギャグ。これだけでも、今までファンタジーの世界を売りにしていた同社の作品群とは大きく異なっている。また、国際的にも評価が高い描画の細かさは極力おさえられ、必要最低限の線とパステルカラーで構成された本作品は、きわめて異色のものだ。

 サラリーマンのものぐさオヤジ、だらしないカアチャン、平凡な兄キ、しっかり者の妹、そして元気なバアさんと仏頂面の番犬を面々とする山田一家、確かに間の抜けたところはあるが、きわめて普通の家族である。居間には、お決まりのコタツとちゃぶ台。そして、なぜか家族は不思議と生き生きとしている。

 デパートで家族に置き去りにされた妹は、渋滞の車内であわてふためく家族をよそに、「私以外が迷子になった」と涼しい顔。バアさんは暴走族のあんちゃんたちに向かって、「それだけの立派なガタイと声があったら、みなに喜ばれる正義の味方になりな」と語りかける。一家だけではない。末期ガンで入院中のバアさんの友人は、向かいのベッドの病人の不倫を怪しみ、自販機のコーヒーがまずいとうれしそうに嘆くのだ。

 こうした当たり前の人びとに、高畑勲監督は最後にこう言わせている。「人生は苦しいこと、つらいことがいっぱいある。そういう時にキレずに生きていくには『まぁ、しゃぁない』と、決して後ろ向きではなく、前向きに思えることが大事じゃないだろうか」と。

 高畑監督は、青少年や大人たちに、現実ではないファンタジーの世界に逃げ込むのではなく、つらい世の中で「もうちょっと楽に生きてみようよ」と言いたかったのではないだろうか。

 合間に織り込まれている松尾芭蕉や与謝蕪村の俳句、そして矢野顕子が歌う主題歌は全編に妙にマッチしており、見るものをリラックスさせてくれる。

 スタジオジブリの作品には現代に失われたもの、失ってはならないものを追い続けているように思える。とすると、こうした「家族」は、現在もう失われつつあるのだろうか。(O)


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