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映画紹介 エネミー・オブ・アメリカ

盗聴・監視社会の現実を暴く

監督・トニー・スコット


 ■銀行、コンビニ、駅のホーム…いたる所に設置されている防犯カメラ。さまざまなカード、電話、Eメール、FAX。それらの情報が国家権力によって管理されたとき、何が起きるのか。個人のプライバシーは侵され、無実の人を犯罪者に仕立てあげることすら簡単にできる…そんな監視・盗聴社会に対する批判を、痛快かつ楽しめるサスペンスドラマに仕立てあげたのが、この映画だ。

 ■ストーリーを紹介しよう。米国議会では「通信システムの保安とプライバシー法案」をめぐって紛糾していた。法案が成立すれば、国家が思いのままに国民のプライバシーに侵入し管理することができる。国家安全保障局(NSA=米国防省内の情報組織。CIAよりも予算も職員数も多いといわれるが超極秘の機関)のレイノルズは、この法案を成立させるため、反対派の下院議員を暗殺する。

 その暗殺現場を偶然にも自然観察家がビデオに撮影。そのテープを荷物の中にこっそりと入れられ、知らぬうちにNSAの最新鋭の追跡システムに狙われるのが、若手弁護士・ディーン(ウィル・スミス)だ。ディーンの信用を失墜させるために、マスコミが疑惑を書き立て、弁護士事務所を解雇される。家族にも信用されず、クレジットカードも使えない。あげくは殺人容疑まで。

 何者かにはめられていることに気づいたディーンは、情報屋のブリル(ジーン・ハックマン)から敵がNSAであることを教えられる。「国民の安全のために通信の管理が必要だ」とテレビで演説する政治家に対して、「わが身の安全のために必要なのさ」と冷笑するブリルは、20年前までNSAの工作員だった。ディーンとブリルは反撃にうつり、どんでん返しのラスト(これがめちゃくちゃおもしろい)。法案は廃案となり、ディーンは平穏な生活を取り戻すというフィクションだ。

 ■映画で目を奪われるのは、つぎつぎに登場する最新システムだ。偵察衛星からの画像は30cmのものまで識別できる。その偵察衛星による追跡装置、超高性能集音マイク、超小型発信機、三次元映像復元システム、クレジットカードのデータ操作…これらが実在の技術であることに衝撃を受ける。テクノロジーの進歩はここまで来ている。

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 日本でも自民・自由・公明党によって、「盗聴」が合法化されようとしている。合法化されていない現在でも、警察は「盗聴」を一つの情報収集手段としている。この映画の内容は、けっして他人事ではないことを痛感させられた。

 私は今朝、電池交換のために預けていた腕時計を、時計店から受け取ってきた。もしこの中に超小型マイクや発信機が取り付けられていたとしたら…そんな想像力をかきたてられる映画だ。あなたも「盗聴」にはご用心を!(K)

【全国の東宝系映画館で上映中】


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