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転々とわたり歩く毎日

病気になっても保障ゼロ

配膳人・派遣労働者  酒井 吾郎


 皆さんは「配膳人」と聞いてどういう人たちか思い浮かぶでしょうか。「配膳人」とは、レストランやホテルの宴会場などで配膳、会場設営などをする人たちです。ほとんどが派遣労働者です。

 私はある「配膳人紹介所」に登録しています。必要な時、必要な人員だけ、派遣させ働いてもらうという、「効率的な」システムが、今は多くの店で採用されています。

 去年の前半は中華料理レストランを中心に派遣されて勤務していましたが、途中から、レストランが配膳人をほとんど雇わなくなりました。客数が減り、正社員だけで人員が足りているのでしょう。今は、ホテル宴会場、フランス料理レストラン、カフェテリアレストラン、ビアホールなど、十カ所ほどを毎日、毎週、転々とわたり歩いています。

◎システム

 その週に事務所へ電話。仕事がきていたらその場でシフトに入れます。仕事がなければまた翌日に電話。最近は、不況の影響で、仕事も減っています。以前は事務所の方から「仕事に入ってくれ」という連絡があったものですが、最近はこちらから電話しないとなかなか仕事にありつけません。登録して仕事をまっている人たちがたくさんいるのです。

◎時間

 労働時間は、四時間でシングル、八時間でダブルといって、これが基本単位になりますが、客の具合によって三十分刻みで変わります。日によっては、昼の時間帯と夜の時間帯とで別の店へいくこともあります。移動時間がほとんどない時には、駆け足で次の店へ向かいます。また、同じ店であっても、午後三―五時頃の一番客の来ない時間に「中抜け」することもあります。もちろん、労働時間には含まれません。これほど中途半端な時間はありません。

 交通費は一回につき一律七百円と決まっています。事務仕事を簡略化するためです。しかし、乗り換えが何度か必要な店へ行くときは、往復するとこの額を超えてしまうこともあります。そういうときはもちろん自腹をきります。

◎めし

 一人暮らしのわが身にとっては、めしのまかないがついていることは大変ありがたい。しかしめしの時間が、客の入り具合などで左右され、何の説明もなく、午後三時頃まで昼食が食べられなかったり、出勤してまだ何もしないうちから、まず「食べろ」といわれたり、非常に不規則です。腹がめちゃくちゃすいた時は、力も入りません。仕事がらある程度はやむをえないとは思いますが。

 また、めしとは別に休憩時間があるところもあるのですが、出勤していきなり「三十分休んで」と言われたりすると拍子抜けしてしまいます。

◎制服

 上に着るコートなどは店で借りますが、仕事着であるシャツ、長ズボン、蝶ネクタイ(仕事をはじめた時に買いました)はすべて自前で、一カ所にいるわけではないのでいつも鞄に入れて出勤します。一仕事した後は、服はけっこう汚れます。正社員は会社がクリーニングしますが、配膳人は自分でクリーニングしなければなりません。

 また店によっては、自分の荷物を入れるロッカーもありません。出入りが自由にできるロッカー室の片隅に置いておきます。社員はそれぞれ自分の棚があります。ああ、自分の居場所がない、悲しい配善人…。

◎人

 配膳の仕事をしている人の世代はまちまちです。学生のアルバイトや、他にやりたいこと(劇団など)があり、その活動のために生活費をつくっている人などにとっては、不定期の仕事はメリットという一面もあります。また、ばりばり働ける世代にとっては、時給換算なので、休みなく働けば正社員よりも稼げることもあるでしょう。もちろん、病気になって仕事を休む時などは何の保障もありません。

 また、中には、証券会社に勤めていたけどリストラされたとか、会社が倒産した、なんていう中高年の人も、けっこう来ています。子ども・家族もいるだろうに、これほど不安定な仕事では生活が本当に大変だろうなと思います。

 また、使用者側から見たら、「配膳人」は、使いたい時に使えるだけ使うコマに過ぎないでしょう。わたしたちは、指示に従うだけです。気をきかせて言われた以上のことをしようとすると、嫌な顔をされることもあります。時々、あまりにも私たちことを考えないような正社員の態度に腹がたつこともあります。そういう人が店の表に出て、「にこやかに」お客様の応対をしているのを見ると、なおさらです。

    *    *

 パーティーでは一人あたり何千、何万円とする料理がきれいにたいらげられることはまずありません。残飯は、はじめのうちはもったいないと思いながら捨てていくのですが、だんだん、機械的に捨てていくようになってしまいます。これだけの食べ物があればどれだけの人のお腹を満足させられることか…。


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