990215


自動車工場からの春闘報告(上)

職能給導入で賃上げゼロも

労働者の怒りは爆発寸前

自動車工場労働者 青山 元


 春闘の組合要求案の職場討議の時期なのに、職場委員のTはさっぱり会合を開こうとしない。とっ捕まえて「おい! お前は職場会をやらないつもりか」と問い詰めると、「やらないといけませんか」ととぼけたことをぬかす。

 この組合は職場委員は班長、評議員は組長、職場委員長は工長と相場が決まっており、総じて労働組合役員としての自覚がなく、配布物を配るだけが任務だと決め込んでいる輩(やから)も少なくない。昨年班長に昇格したばかりのTもその一人だ。

 さて、そんなことで始まった職場会ではあるが、Tの怪しげな説明を聞くまでもなく、今年の春闘要求も相変わらず労働者を会社に売り渡す反階級的な内容だ。組合の情勢評価はお先真っ暗で「賃上げよりも雇用が優先」とか「会社の諸施策に積極的に協力」など資本に媚(こ)び、残業規制や人減らし、裁量労働制によるタダ働きの強制など、労働者のおかれている現状を無視して、賃上げ一時金とも昨年の要求より下げているのだ。

 そして、会社がさらに大もうけをするために、世界に工場を建てまくっていることには目をつぶり、会社とグルとなって「国内生産、販売とも厳しい」などと不況宣伝の大風を吹かせている。

 今年の春闘の特徴は、この時期に労働者の賃金を「賃上げ」だけでなく、制度面でもさらに押さえ込もうとしていることだ。裁量労働制の拡大や賃金体系の改悪が、さらには福利厚生施設・制度の使用制限にまで及んでいる。

 とりわけ、職能給比率の拡大、年齢給の廃止、査定幅の拡大(八十五〜百十五を七十〜百三十に)は労働者間の賃金格差の拡大と賃下げを生じさせる。

 たとえば、平均九千円の賃上げ要求だが、組合による職層、年齢、昇格による「個別賃上げ方式」では、ある三十五歳の労働者は二万円近くの要求だが、ある五十歳代の労働者では数千円の要求となり、税金や保険料のアップにより実質的にはほとんどゼロとなってしまうのだ。三十五歳のTは「それは世の中の流れです」と組合役員用冊子のQ&Aを読み上げて説明したつもりだが、誰も納得していない。

 会社の狙いは労働者魂を骨抜きにする「職能給賃金体系」を確立して労働者同士を争わせ、全労働者の大半を占める中高年労働者の賃金を抑制し、さらに大もうけしようとするきわめて意図的、かつ悪らつなものだ。

 労働者の怒りは爆発しそうに高まっている。特に従来「生活給」「経験給」としての意味があった「年齢給」が廃止され、「職能給」に統合されてほとんど賃上げが望めそうもない中高年労働者の怒りは強い。これまで、さんざんこき使ったあげく、「役に立たなくなった中高年は切り捨てる」という資本の論理が丸見えだからだ。

 このことにTは答えられず、「組合のエライ人に直接言ってください」と逃げたが、近いうちに執行委員が報告する工場職場集会が開かれるようだ。「たぶん俺の賃上げはゼロだな」というHさん、「黙ってはおられん」というKさんと共に、今度の職場集会では暴れてやろう!

(つづく)


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