990215


工場は合理化で人不足

救援ベル鳴らしても誰も来ない

休めず病死した仲間も

自動車工場労働者 坂上 達也


 日本の自動車メーカーは、現在十一社あるが、俺はその中で毎日ベルトコンベアーで自動車をつくっている。

 最近読んだ本によると、二十一世紀には五社程度に集約される。あるいは、トヨタとホンダ以外はみな消えてしまうだろうと書いてあった。これらはかなり以前からいわれてきたので、あまり珍しい予測ではない。そして、最近の流れから確実に業界再編が進んでいると実感している。

 その背景は、世界的な不況で自動車マーケットが縮小していること。環境対応するための開発、生産コストが急増する中で、以前のようには生産が維持できなくっているからだ。

 そのため経営者は、国内市場が低迷すれば、欧米、中近東、アジア、アフリカなど、世界市場でその分をカバーしている。これじゃあ、貿易摩擦も起きるよなあ。

 しかし、国内では激しい競争の結果、大幅な値引き競争が行われている。その結果、販売会社の収益が悪化し、メーカーも稼働率低下で経営は悪化の道をたどっている。これが自動車業界の実情だろう。

 世界的な不況、国内不況で、かつてなく失業者が増大している。俺も首を切られた労働者を何人も知っている。しかも福祉、医療では改悪が進み、われわれのような労働者や大衆は苦しみ、逆に金持ちは優遇されて減税になる。法人税も下げられるようだが、財界のための自民党政治が浮き彫りになっている。

 もうしばらくすると、賃上げのための春闘だが、連合は雇用優先で賃上げは見送りとか…。これじゃあ誰でも車を買えるわけがない。ますます国内市場は悪くなる。そして、そのしわ寄せがまた来る。たまらんなあ。

 また退職問題も大きくなっている。会社都合で退職させると、退職金は一二〇%払わなくてはならない。だから「いじめ退職」が起きている。会社はいじめて自己都合退職にさせ、退職金を減らしている。しかもこれは銀行の指導によるものだそうだ。労基署の調べでも、いじめ問題の相談が五五%増えていると新聞に出ていた。もちろん労働者の首を切ると、当然ながら残った労働者の給料は悪い影響を受ける。

ローン払えず 家を手放す人も

 俺は配置替えになって半年がたった。だが今年も有給が四十日もあるのに、八日しか使えていない。休めなかったのは合理化で人が減らされ、人がいないからだ。

 最近も、作業中にどうしてもトイレに行きたくなって、救援ベル(トイレとか緊急の時に応援を頼むベル)を鳴らしたが、誰も来ない。しかたなく、ラインを止めてトイレにかけ込んだ。すると職制から「お前は俺に逆らうのか」と怒鳴られ、俺も思わず「クソをタレ流して仕事をしろというのか」と言ってしまった。実際にトイレをがまんするのがきつくて会社を辞めた人もいる。

 別の工場から応援に来ていた人は、「体が悪いので休ましてほしい」と言ったが、(休める)体制がないからだめと言われ、どこでかは知らないが死んでしまった。

 会社の葬式に奥さんを呼んだが、「いかない」と言われたらしい。単身赴任で家庭不和があったのかと思っていた。ところが、死んだ人は腹膜炎になり、手遅れで死んでしまったのだ。奥さんは会社を恨んで来なかったようである。

 ラインは毎日同じ仕事で、体も同じ部分が酷使される。親指が疲労骨折した人、けんしょう炎になり病院に行ったら、「なぜここまで放っておくのか。会社の診療所に行かなかったのか」と怒られた人もいる。その人はがまんしていたが、あまりにも痛みがひどく、寝れずに病院にいったそうだ。

 こんなに働いても俺たちの給料はしれたものしかない。しかも、勤務体制が変更になり、夜勤手当が減らされた。そのために給料が減って、家のローンが払えず、家を手放した人もいる。

 そして、下請け・関連会社はどんどん切られている。不況を理由に賃下げ、首切り・合理化が着々と進んでいる。気になるのは、自殺者が増えていることだ。気の強いものなら銀行強盗でもするかもしれないが、だけど解決はしない。

 誰かが「労働者が天下を取ることを考えるときが来ている」と、言っていたが、そうしなければ、この繰り返しが続くのだろう。そう思いながら、何もしないで焼酎を飲んで寝る毎日が悲しいなあ…。


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