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徹夜続きで病院直行も

低賃金で使い捨てのSOHO

東京 宮内 武史


 私は、いまはやりのSOHO(スモールオフィス・ホームオフィス)を副業としている。行政用語では「テレワーク」と呼ばれているが、パソコンやインターネットなどを活用し、在宅勤務を行う就労形態のことである。仕事の説明を聞き、材料をあずかった後は、自宅でのパソコン作業となる。仕事が終わったら、インターネットを通じて納入するのである。

 この就労形態の利点は、自分の好きな時間に仕事ができることだ。コンピュータやインターネットのおかげで、元請けと離れた場所にいても仕事ができるのは、確かに便利ではある。しかし、「好きな時間に仕事をする」というのは、実際は際限のない長時間労働である。

 しかも、賃金は仕事の成果に対して支払われるのがほとんどで、何時間連続で働こうが、通常二五%増しで受け取れる残業手当などというものはない。コンピュータはもちろん、通信で使う電話代も自分持ちである。

 SOHOなどと美しい言葉を使ってみても、要は低賃金の下請け労働に過ぎない。その実態を紹介しよう。

 私は先日、パソコン雑誌の割り付けの仕事を請け負うことにした。この雑誌の仕事は初めてだが、忙しいのは二日間程度だというので引き受けることにした。ところが、今回の元請けは締め切り日を過ぎても肝心のデータを送らず、そのくせ、「仕事が遅い」とか「スキル(熟練度)が低い」とか言ってこちらをなじるのである。

 しかも、受け取った画像データが、いまはやりのコンピュータウィルスに感染しており、いっしょに仕事をした女性は、一時コンピュータがまったく使いものにならない状況になってしまった。私は防御用ソフトを入れていたので事なきを得たが、このソフトにも数万円を投資していることは言うまでもない。

 しかし、こうしたことでうっかり元請けに文句でも言おうものなら、以降の仕事は取り上げられた上に、いまの仕事の支払いすら危うくなるのである。元請けが自分の間違いを認めることは、絶対にないといってよい。すべては下請けの責任である。大企業、下請け企業の構造と、寸分の違いもない。

 私も「うちの会社をなめてるのか」というののしりをじっとこらえて仕事を続けたが、結局、二日連続で徹夜をしたあげく、締め切り日を三日も過ぎてようやく仕事を終えることができた。

 かの女性は、四日間文字通り寝食を忘れ(食事もしなかったらしい)、意識もうろうとしたなかで仕事を続けたあげく、終わった足で病院へ直行、点滴のお世話になるはめとなった。

 こうして完成した雑誌は、いまも書店に並んでいる。しかし、私の収入は八万円ちょっとだった。

 「パソコンは会社を、経済を、ライフスタイルを変える」とよく言われる。確かにそうだ。

 だが、旧来の低賃金労働をより見えにくく、資本にとって都合のよいものに取り換えたに過ぎない。「自宅で手軽にSOHO」などという宣伝文句にダマされてはならない。世の中で「手軽」なものほど、信用のおけないものはないのである。


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