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治療費払えず年金で借金

国に捨てられた老夫婦

中小企業労働者 関根 徹(65歳)


 国家の公的資金(税金)が、大企業の経営する銀行のばく大な投機的失敗の穴埋めのために、「金融の国際的信用回復」「経済不況の回復」という名目で、湯水のごとく使われている。地方自治体の税金は、ゼネコン(最大手建設会社)支援のために、東京、埼玉、大阪をはじめとする各都市で、一般の国民生活とは無縁の大規模なハコモノ建設のために、いっせいに使われている。

 また、政府はヘッジファンドに食い荒らされたロシアとアジア圏の経済破たんを救出するために、これまた途方もない税金を資金援助として海外に提供。ポッカリと開いた財政の大穴を、赤字国債を大量に発行することによって埋めようとしている。狂気の沙汰(さた)としか思われない現実が、わが日本政府によって、現在堂々と行われている。

 このような政府の下で、日本国民の生活はいったいどのような状態になっているのか。新聞報道ですっかりなじみとなった中小企業の倒産、失業、犯罪、自殺の急増、青少年の犯罪、政治家と企業の汚職など、この政府のもとなら当然起こるべき社会現象が発生し続けている。

 かつて存在した「野党」という、政府に対する批判勢力は跡形もなく消滅。逆に、それらはまったく信頼を失った政府・与党に対する国民の怒りを押し静める「なだめ役」に堕落してしまった。国会では、国民の生活を守る勢力は皆無である。

 日本政府からも野党からも見捨てられ、流浪の民と化した国民の現実の一端を紹介したい。

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 失業し、生活苦からサラ金地獄に陥り、自己破産宣告の申し立てをする人の数が増加している。特にやりきれない例は、妻の病気治療代金の支払いに困り、自分の年金を担保に借金をする羽目になった高齢者の話である。

 年金を担保に金を貸す公的機関があるが、この金融機関から借金した場合は、借金の満額返済をしない限り、その人の受け取るはずの年金は金融機関によって差し押さえられてしまう。

 したがって、その人の生活費としての年金はゼロとなり、生活破たん者となってしまう。自己破産宣告の申し立てが成立した後でさえも、借金が公的機関(税金で運営されている)からという理由で免責されない例である。

 高齢者であるがゆえに、病気の妻をかかえているがゆえに、借金はサラ金からすら得られない。自己破産してもなおかつ借金が残る老夫婦を、救う者は誰もいない。

 敗戦を経験しゼロの戦後から出発し、復興した日本をつくりあげるために骨身を削って奮闘してきた現在六十五歳以上の高齢者が、「年金を担保に国から借金」をする? しかも自己破産しても借金が免責されない? 日本の労働者の今日までの努力はいったい何だったのか! 夜勤、夜勤で過労死までして働き続けてきた日本の労働者の苦労はいったい何だったのか! その答えが、生活のために「年金を担保に借金」だって!  


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