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業績不振、工場移転、分社化…生活の土台が崩れていく

みんなが不安感じている

零細企業労働者 松原 善治


 会社の先行きがどんどん怪しくなってきている。零細企業だが、十年ほど前には、一カ月の売り上げが創業以来の大記録を記念して緊急宴会を開いたことがあった。次の年には社員旅行で海外へも行った。だが、そのころをピークにして、売り上げは横ばいから、だんたん下向きになってきた。

 消費税が五%になった時は、事前の駆け込み需要を期待した。でも、期待どおりに売り上げが伸びたのは、ごく限られた業種だけだった。それだって、駆け込み需要の反動で、五%が実施された後は、極端な落ち込みとなった。

 売り上げ記録を宴会で祝ったころと比べて、年間の売り上げは半分以下になった。今年の夏に消えたボーナスが年末に復活するあてはない。このままでは減給も時間の問題だろう。減給だけで済めばまだよい。会社そのものがなくなってしまうかもしれない。自分のまわりを見ると、深刻な事態がどんどん進んでいる。

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 近所に住む知人は、定年をまだ十数年残して退職する道を選んだ。家から自転車で五分ほどのところにある東燃の工場が県外へ移転するからだ。県外移転しても、今いる社員全員を雇えるほどの余力はない。もし、地元に残るなら下請けを紹介すると会社は言うが、当然、給料や待遇は今より悪くなる。これまで、頭を下げにきていた下請けの社員に、頭を下げなければならない場面もあるかもしれない。立場が逆転するのだ。

 今のままの身分でいたければ、県外の工場へついていくしかない。でも、新しい職場が快適という保証はない。窓際族になるかもしれない。慣れない営業畑にまわされるかもしれない。

 日立製作所の工場も、来年の七月に別会社になる。いわゆる「分社化」である。日立グループ全体で二千六百億円の赤字を抱えているという。コストを下げるにも限度がある。いよいよ社員の給料を切り下げ、首を切るための準備が始まった。

 日立の工場の社員は現在八百人、十年前には期間工も含めて千五百人ほどいたから、最盛期の半分になっている。ここ数年、たくさんの社員を同じ日立のグループ企業に出向させてきた。でも、グループ全体が落ち込んで余力がなくなってきた。

 分社化で、日立の看板をはずして別の会社となる。社員の給料や福利厚生は今よりよくなるわけがない。人によっては、総収入が今までの八割くらいになってしまう。社員の反応はさまざまだという。定年が近い人は、定年まで会社が存続することを祈っている。

 若い社員のなかには、別の道を歩むことを真剣に考える人もいる。いくら求職難とはいえ、若くて技術を持っていれば、なんとかなるという気分になるのかもしれない。でも、現実がそれを満たしてくれるかどうか、わからない。

 自分たちの暮らしを支えてきた土台が、どんどん削られていくのを実感として感じる。どうしようもない不安にとまどってしまう。でも自分だけではない、まわりのみんなも同じ不安を感じているんだという連帯感のような気分も、確実に生まれている。 


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