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映画「学校III」と山田洋次

学生 荒木 弘也


 先日、映画「学校III」上演と、その監督である山田洋次氏の講演会があった。地方自治体主催の人権啓発企画であった。無料であったことと、現代の大失業状況下の職業訓練校を描いた作品だと聞いて関心を持っていたので、行ってみた。

 ストーリーは、リストラや倒産などで職を失った中年以上の生徒が、再就職のために学ぶ職業訓練校のボイラー技師教室が舞台。自閉症の子どもの母(大竹しのぶ)と証券会社をリストラされた元企業戦士(小林稔侍)の恋愛を軸に、さまざまな問題提起がなされる。

 他の山田映画と同じだと思うが、山や谷、ハラハラドキドキがあるわけではないのだが、非常に日常に近い、生活感のある喜怒哀楽が感じられるものであった。

 皆で四苦八苦しながら資格試験の勉強をしたり、自閉症の子どもと苦労しながら生活する様子を見ると、現実の人間関係の中の優しさ・冷たさを再認識させられた気がする。

 映画の後、山田洋次監督の講演が始まった。「男はつらいよ」の寅さんのような、折り目正しい話し方である。たくさんの聴講者がいたが(ほとんどが中年以上の人だった)、皆食い入るように聞き入っていた。話の内容は、映画を作ったきっかけや自分の思いなどであった。

 その中で、映画のモデルになった東京・亀戸の職業訓練校の現状にも触れた。「映画の中では皆すんなり学校に入り、卒業後はそろって就職を決めているが、現在の情勢はそれよりはるかに厳しくなっている。職業訓練校に定員の七、八倍の応募があり、学校も入校者の選考をせざるを得ない。また、卒業者しても半数ほどしか職を得ていない」という話だった。「情勢を反映した映画」だが、それよりもさらに早く情勢は進んでいるということか。

 そのようなフォローをしたうえで、「高齢者や女性、障害者という理由で職場から追い出し、社会の隅に追いやるような社会でいいのか。人間は多様で当たり前。そうしたことを認め合う社会・人間関係こそが幸福なのではないか」という趣旨のことを話した。「これが山田映画に流れる哲学だな」などと思いながら聞いた。

 また、現代の雇用政策にも触れ、「五十歳を過ぎても十分に働けるし、むしろそのくらい年を重ねないと身につかない能力もある。能力主義だ、雇用の流動化だというのであれば、働きたい高齢者を支える制度は前提である」と語った。

 映画の中で「私のような年寄りが何かたいしたことができるわけじゃないけど」というセリフに対し、他の人が「そんなことはない。俺たちはダテに年をとっているんじゃない。これだけの人間がいて、できないことがあるわけないじゃないか」というシーンが、クライマックスで出てくる。クサイ…美しすぎる…とは思いつつ、でも地味にいい。

 結局のところ、観賞すると何となく心地よく、優しくなれる感じのする映画であった。会社や社会にいじめられている労働者へのエールになればと思う。


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