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2000年の介護保険導入

ケアマネージャー国家試験

合否の基準さえ不明とは!

福祉現場は右往左往

老人保健施設職員 石垣 淳子


 老人保健施設で働いています。福祉関係の仕事をしたいと思って、工場で働きながら大学の通信教育をうけ、七年前に社会福祉士の資格をとりました。夜勤もふくむ介護の現場労働も数年間経験し、現在は相談員をしています。入退所の相談やケアプランの作成が主な仕事ですが、いろんな老人たちや家族の人たちと接していると地域の縮図、人生の縮図を見る思いです。

生き残りかけた業界競争激化

 さて、十月五日号の労働新聞で看護婦さんの通信にあったように、ケアマネージャー(介護支援専門員)の国家試験が実施され、私も(施設の期待をになって?)受験しました。昨年末に「介護保険法」が成立し、二〇〇〇年四月からの施行(サービスの受給開始)を前に、地方自治体や医療、福祉施設などの業界、そこで働く私たちをまきこんで右往左往のドタバタ劇がくりひろげられています。

 市町村では来年十月頃から、準備的な「要介護認定」が始まる予定ですし、制度実施にむけてどんどん動きが加速しています。

 介護保険制度については、国民への負担(四十歳以上は強制加入)を強いるうえに、実際に介護や支援サービスが受けられる体制がどこまで整うのかということさえ不透明なまま見切り発車するような状況で、さまざまな議論があります。

 しかし実際のところ、私の県の老健施設協会や社会福祉士会では、法成立前から保険制度導入を前提として、さまざまなセミナーが開かれたりしており、もっぱらこの制度のもとでどうやってもうけていくのか、どうやったら競争に生き残れるのかが関心事だったように思います。

 特に今年に入ってからは、介護保険制度を実際に運用していくうえで重要な役割を果たすケアマネージャーの国家試験をめぐって、受験対策のための講習会や研修会がたびたび開かれてきました。

 法では指定介護支援サービス事業所および介護保険施設には、ケアマネージャーの配置が義務づけられており、その事業体にとっては維持・存続にかかわる一大事として、どの施設も必死になるのは当然です。

 全国的にも、厚生省が発行する「標準テキスト」や受験対策のためのさまざまな研修テキストや参考書が何十万部という、このたぐいの本では空前のベストセラーになったり、さらにこの不況で「とにかく資格をとっておけば」ということも加わったのか、異常とも思える過熱ぶりでした。

 私もまわりの雰囲気におされて、試験勉強を仕事と家事の合間をぬってやりましたが、サビびつきかけた頭に知識を詰め込むのは大変でした。

 試験は、全国の都道府県で九月二十日から十月十一日まで四回の日程に分けて実施され、私の県は一番最後の十月十一日のグループでした。この試験については、先行してよその県で行われた第一回目からの試験問題が、毎回解答例つきで、情報サービス会社から二千円でFAXで配信されて出回るなど、けっこうデタラメなことがやられていました。毎回の試験問題の中身はもちろん違いますが、出題傾向はわかりますし、後から受験するほうが有利なのははっきりしています。なぜ全国一斉の試験ではなく分散してやったのかは分かりません。まったく間抜けなことだと思います。それにしても、私の県では五千人以上の人が受験し、全国でも二十万人以上の人が受験したそうです。

 そんなこともあったのか、当初十月末とされていた合格者の発表は、十一月に変更されました。そのことも試験当日、会場で変更が伝えられ、受験者一同「エーッ」と驚いてしまいました。また、何問正解すれば合格するのか、あるいは人数で足切りするのかいまだに合否の基準さえ明らかにされていません。「いったい何をやってるんだ」という不満を口にする人も多いです。

厚生省に振りまわされる現場

 まさに「泥縄」という言葉そのままの厚生省のやり方に、この制度の行く末(法施行の五年後に制度の見直しが予定されています)が暗示されているような気がします。

 ある開業医(個人で診療所をやっている)の方と話していたら、「訪問看護をやれるような大きな病院や施設はいいかもしれないが、自分のようなところではスタッフもいないし、やろうとしても銀行も金を貸してくれない。患者(客)をどんどんとられてしまっている。もう店じまいしようかと思う。町医者では後継者もいない」とぼやいていました。

 介護保険制度は、「保健、医療、福祉」の垣根を取り払うビッグバンといわれていますが、そのとおりで、病院や施設間の競争は激化し、大型店の出店でつぶされていく中小商店、さびれ果てる地方の商店街と似たようなことになるのではないでしょうか。

 国民年金保険料を払わない(払えない)人が増え、自営業者や学生など市町村の窓口で支払う人、約二千万人の加入者のうち一五%(約三百万人)が保険料未納者で、未納額は年間約四千五百億円にもなり、この不況で年々増えているということが新聞記事に出ていました。これから始まる介護保険も、早晩同じような状況になっていくのは目に見えています。

 計画どおりにいかないだろうなということは分かっているのに、国の政策がゴリ押しされ、そのために国民には犠牲が押しつけられ、私たち現場で働くものは振りまわされるような、こんな政治にほんとうに腹だたしい思いです。


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