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映画紹介

スティーブン・スピルバーグ監督作品

プライベート・ライアン

戦場の悲惨な現実に迫る


 一九四四年六月六日に決行されたノルマンディ上陸作戦。第二次世界大戦の局面を変えた闘いとして有名だ。連合軍の「大勝利」といわれている作戦だが、五つの上陸ポイントのうちオマハビーチではドイツ軍の猛反撃にあい、多くの犠牲者をだした。

 米軍のミラー大尉(トム・ハンクス)の部隊は、ここで死闘を繰り広げる。上陸艇は、要塞にこもったドイツ軍から狙い撃ちにされる。折り重なるように倒れる兵士たちの血が、海を赤く染める。肉が飛び散り、内臓がむき出しになり苦しむ兵士…。

 三十分間にわたる戦闘場面のリアルな描写が、この映画の最大の特徴といえよう。戦争は人間と人間が殺しあうむごたらしいものであることを、容赦なく暴き出す。

 兵士の視線に合わせたように動く画像と激しい砲撃音で、臨場感がものすごい。映像の色調がセピア色系で、血生臭さは抑えられながらも、戦場の緊迫感、恐怖感が迫ってくる演出だ。

 ミラー大尉は好運にも生き残るが、「兄三人が戦死したライアン二等兵を帰還させよ」との新たな命令が待ち受ける。

 それは、四人の息子のうち一人だけでも生きて母のもとに帰そうという参謀長の「思いつき」でもあり、国民の厭(えん)戦気分を和らげるための国策でもあった。

 ライアン二等兵を救出するために八人が編成され、ドイツ軍の包囲網を進む…。

 この映画は、殺さなければ殺される戦場に立たされた普通の兵士たちの物語だ。スピルバーグは、極限におかれた兵士たちの「人間らしさ」を追求しようとしながらも、戦場のむごたらしさの前には「人間らしさ」なんて消しとんでしまう現実を、圧倒的な迫力で描いている。

 この映画を見て、改めて第二次世界大戦や日中戦争で、いかに多くの血が流れたかを考えさせられた。中国では日本軍の虐殺によって川が血で赤く染まった。また、日本軍が連合軍と闘ったビルマ(現ミャンマー)の戦場では、「死守すべし」という命令のもと、食も弾薬も断たれた日本兵が玉砕。七万五千人を超える日本兵の屍(しかばね)が、今もビルマに置き去りにされたままだ。

 ミラー大尉はライアン二等兵に、「しっかり生きろ」と言い残して絶命する。このミラー大尉の思いは、戦争に巻き込まれ無念のうちに死んでいった犠牲者たちの、共通の思いではないだろうか。

 映画の冒頭とラストには星条旗がひるがえる。この作品も、「自由のために闘う米国の正義」を印象づけるという点では、従来のハリウッドの戦争映画の枠を超えるものではないだろう。

 しかし、若い人に見てほしい。五十数年前の戦争が何だったのか、日本がその時何をしたのか、考えるきっかけを与えてくれると思う。 (K)

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