私が働いている病院は、ベッド数が百五十、看護婦が約六十人いる民間救急病院です。私がこの病院に勤めはじめて、八年になります。
いま病院では、患者さんの病院離れが大問題になっています。医療費の自己負担が増えたため、患者さんが病院に行くのを控えているからです。
自己負担が一割から二割になるということは、払う側からすると、医療費が二倍になるということです。以前はゆったりと入院するという感じでしたが、最近はさっさと退院する人が多くなっています。
そのことが、病院経営や私たちの労働条件に大きく響いてきています。
先日、経営側は夜勤の四人体制を三人に減らすといってきました。入院患者の数が少なくなっているので、それに対応するためだというのです。経営側は患者数が増えれば、看護婦の数も元に戻すと約束していますが、患者数が増える見込みはどこにあるのでしょうか。
私たちの勤務形態は二交替制で、夜勤の場合は夜七時から翌朝九時までぶっ通しで働きます。十四時間勤務はたいへんです。ですから、夜勤では看護婦の人数が決定的に重要です。人数が少なければ精神的にも肉体的にも大きな負担となります。国立病院では二人夜勤・二交替勤務が問題になっていますが、反対する気持ちはよくわかります。
費用払えず病院追われる人も
若い看護婦は月に六回ほど夜勤をやっていますが、三人体制になると、夜勤の回数も減ってしまいます。三回夜勤が減ると、一回一万円として、三万円の減収です。
いまは残業するほど仕事がありませんから、時間外手当はほとんどゼロ。看護婦にとっては、たいへんな減収です。若い人たちからは不満の声が聞こえてきます。
そのうえ、定期昇給もほとんど見込みがありません。去年も今年も三千円くらいでした。基本給が一万円上がるのに三年も四年もかかる。基本給が少し上がっても差し引かれるほうが増えており、手取りは減ってきています。
いま話題の減税ですが、「あなたはいくら減税されます」「今回いくら引きました。残高はいくらです」と書いた紙が給料袋に入ってきました。でも、手取りはほとんど変わりません。これでは、減税分で買い物にいこうという気は起こりません。
また、患者さんの生活もたいへんになっていることを実感します。
骨折で老人保健施設から入院してきた女性が、治療費を全然払ってくれないというので、家族を呼んで話を聞きました。長男が大学に行くようになって学費がかかり、おばあちゃんの年金を生活費に食いつぶしているようでした。老人保健施設は費用が高く、月々六〜七万円くらいの負担が払えないということで追い出され、この病院に入院してきたそうです。
おばあちゃんは病気を重ねながら、転々と病院を渡り歩かなくてはならない。話を聞いていると、せつなくなります。
介護保険で右往左往
患者数が激減する中で、二〇〇〇年から導入される介護保険は、福祉施設だけでなく病院にとっても、死活問題になってきています。
先日、はじめての介護支援専門員(ケアマネージャー)の国家試験がありました。ケアマネージャーは介護が必要と認定された高齢者に、具体的なサービスメニュー(ケアプラン)を作成する仕事をします。
療養型の病院はすべて介護保険のお金でまかなわれるようになり、国が指定した人数のケアマネージャーが必要になります。
病院は、自分が経営する訪問看護ステーションやディサービスの施設を利用したケアプランをたててほしいわけです。そのために、自前のケアマネージャーを持つことに必死になっています。
ケアマネージャーを配置すれば、プランの作成からサービスの提供まで、総合的に対応できるからです。
受験日には、マイクロバスをしたてて受験場にのりこんできた病院もありました。要するに、介護保険導入を見越した患者の取り合いが、すでに始まっているともいえます。
介護保険については、友人たちと学習会をやって勉強しましたが、問題点について患者さんも知らないし、医療関係者も詳しいことは知らされていない。そのうえ、細かいことが決まっていません。
介護保険とはなんぞやというところはそっちのけで、「試験に受からなければ病院の経営が大変だ」ということで、医療関係者が一丸となって大フィーバーしている状況です。なんと、介護保険の教科書がベストセラーになるほどです。
私も受験しましたが、合格基準もまだ定まっていないようで、何もかもがドタバタしています。介護保険が導入されたら、医療現場はものすごい混乱が生じると思います。
この介護保険制度は、汚職で逮捕された元厚生省事務次官の岡光がつくったものです。なぜ、見直されないのか不思議です。
これからは、世の中のおかしいことには声を上げていかなければと思っています。
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