980825


帰省みやげも自粛を強要

「日本一の賃金」なんて嘘っぱち

暑い夏、怒りも沸騰

自動車工場労働者 青木 三郎


 十一日間という長い夏期連休が終わり、今日からまた仕事だ! 地獄のラインが待っている。もっとも、長い連休といっても会社の都合で長くなっただけで、俺たちが要求したものでもない。

 会社は毎年新車需要の高まる春先は、生産を上げるために俺たちを週休一日でこき使い、暇な八月にその休みを持ってきただけだ。だから、春先は毎週土曜に働いても休日出勤扱いにならず、おまけに残業も多く身体はクタクタで、日曜は家で寝ているだけで終わってしまうんだ。

 会社と労働組合は「労働時間の流動化」などとカッコいいこと言っているが、これも「規制緩和」の一種で、結局バカ見るのは俺たちなんだ。そんなこととは知らない人たちは「休みは長くてうらやましい…」なんて言うけれど、これが実態なんです。

 さてさて、始業前のミーティング場が今日はなぜか寂しい。そうだ、今年は不況なので帰省みやげも自粛となり、いつもなら机の上に並ぶ「ひよこまんじゅう」「そばまんじゅう」「昆布まんじゅう」などがなく殺風景だ。

 それでもみんなで水を飲みながら帰省した話や、海山に遊びに出かけた話で盛り上がっている。そんな中に入って話を聞いていると六年ぶりに家族そろって九州に帰省したというA君が、足元から紙袋を出しながら「これ、組長には内緒ですが、皆さんで食べてください」と故郷の名の入ったまんじゅうを差し出した。

 みんなは、話をやめて一斉にその菓子箱に注目した。そして、B君が立ち上がって周囲を見回して目配せすると、開けられた菓子箱にごっつい手が集中した。「やっぱり、連休明けはまんじゅうだよな」と誰かが言ってみんなを笑わせた。

 すると今度はCさんが「俺も、家にみやげの菓子があるんだが、組長にイヤミを言われるのがいやで持ってこなかったんだ」と言う。私は、まんじゅうを食べる口の動きが止まってしまった。まんじゅう一つのためにこんなにいい人たちを苦しめ、悩ます奴らに無性に腹が立ってきた。

 世の中は不況、大不況と言われている。もちろん、この工場も以前に比べれば生産は落ちてはいるが、まだ残業ゼロではない。会社はしきりに不況宣伝を繰り返すが、ラインスピードが落ちたり、仕事が楽になったりすることはない。むしろ世間の不況を口実に厳しくなるばかりだ。

 会社は史上最高の業績を上げたというのに、俺たちの生活は一向に楽にならない。組合幹部や会社は「当社の賃金はトップクラス」というが、嘘っぱちだ。帰省みやげを自粛しなきゃならない賃金が「トップクラス」のはずがない。どこの奥さんも生活苦のためにパートや内職に精を出していて、賃金が「トップクラス」のはずがない。「トップクラス」なのは労働者の生き血を吸っている奴らの生活水準だけだ。

 この町の夏は京都の夏と並び称されるほど蒸し暑い! 暑苦しい! 腹が立つとさらに暑くなる。だから、今夜も扇風機をブンブン回して寝るんだ!


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