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もうすぐ夏祭りだが…

毎日働いても借金残る

宮崎・農業 松永 勇


 私は四十二歳になる専業農家の後継ぎです。コメを中心に、露地ものの野菜を出荷して農業を経営しています。村に若い人がいなくなって、村の世話役もやっています。生産組合、消防、祭りの世話と、農作業以外でも忙しく働きまくっています。

 今日の新聞に私の県の農業収入が二三%も減収になったと載っていました。米麦の減収、みかんの暴落などがひびいています。

 昨年はコメを収穫して農薬、肥料などの経費を引いたら、何も残りませんでした。借金だけが残り、農業に見切りをつけていく同年代の人が増えています。現金収入を求めて働きにいくにしても、建設業は不振で仕事もありません。

 「やめてどうするか。もう少しがんばって村を守っていこう」と話しかけても、無力感を感じるだけです。

 何でこんなことになったのでしょうか。お天とうさん相手の仕事とはいえ、毎日働いても借金が残ってしまう農業に、誰がしたのでしょうか。私の両親の時代は、コメとみかんでやっていけました。大学にいった友人さえいました。

 私は高校を卒業して十年間は役場、農協の勧めもあって、ハウス栽培などもやりました。しかし、借金だけが残りました。

 それから十年農業をやりながら、造り酒屋の杜氏(とうじ)に出て働きました。身体を壊して家で静養していた数カ月間、村の中を見渡したら同年代の仲間たちは都会に出ていき、いなくなっていました。

 この二十数年の間に、農業・農村をめぐる状況は大きく変わりました。コメの減反、牛肉・オレンジの輸入自由化。いまやコメも自由化されてしまいました。徳川時代の封建社会でさえ「生かさず殺さず」であったのに、今の時代は農業をつぶしてしまおうというのでしょうか。

 新しい農業基本法が検討されています。日本に農業はまだ必要だと考えているのでしょう。しかし、新しいことが始まるときは気をつけないといけません。誰のためにやられるのか、誰が利益を受けるのか。しっかり監視していかなければと思います。農業・農村がいよいいよ切り捨てられることにならなければよいがと心配しています。

 「農業は甘えている。補助金ばかりもらって」と的はずれな批判ばかり繰り返していたテレビによく出る評論家氏が、三十兆円の銀行救済のための公的資金の投入に対してなんといっているのでしょうか。「国家存亡の危機だから仕方がない」。

 農業・農村の崩壊は国家存亡の危機ではないのか! 数少なくなった村の仲間たちと農業とわが村を守ろうと語り合いながらも、とても頭にくる毎日です。

 村を出て行かざるを得なかった仲間たちが、都会で労働組合運動でがんばって、農村の私たちと手を組むようにしてくれれば、政治も少しはよくなるのだが…そんなことを考えながら、里帰りをしてくる仲間たちのために、盆踊りの準備をしているところです。


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