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優良農地が消えていく

米価2万円が1万4千円に

農民がやる気なくす農政

埼玉県庄和町・農業 鈴木 久雄


 ここは東京から四十キロ離れた、国道十六号線と新四号線が交わる江戸川沿いのコメ作り農業地域です。農業振興地域で、十年前に土地改良整備工事がなされました。工事費は六億円余で、八〇%くらいが補助金です。面積は九ヘクタールなので、非常にお金がかかった事業といえます。振興する責任期間は十年でした。

 昨年二月、その責任期間が切れるのを待っていたかのように、不動産業者から商業開発の申し入れがあり、その説明会が行われました。それから、三、四回説明会がやられた結果、商業開発に九〇%以上の地権者が同意。今年六月末、町長と議長に請願書と地権者の同意書が提出されました。

 もちろん、自治体の区の機関で可決しているし、区長も代表となっています。土地四十三ヘクタール、地権者百人、事業方式は土地一括借用で、使用目的は大商業店舗とレジャー施設となっています。

署名つきのアンケートがとられましたが、所有面積の多い人ほど反対、少面積の人ほど賛成でした。なぜかというと、土地の評価が農地の場合は百万円ぐらいですが、宅地になると十五倍ほど高くなり、一ヘクタールで四億円ぐらいになります。そうなると、相続税が多大になるからです。

 結局、提出された面積は当初の半分の二十ヘクタールとなりました。半分でも大きな規模です。また、許可を得やすくするためか、「町づくり構想」と名づけていますが、大規模であること、優良農地であること、町の商業者への影響も大きく、今後大議論となるでしょう。

 政府の低米価政策と消費の減少とによって、五年前六十キログラムが約二万円だったのが現在は一万四千円に下落。農家がやる気をなくしてしまい、「開発賛成」に同意したわけです。

 旧農地法では耕作者の権利が強く、地主が農地を貸すことを嫌がっていましたが、法改正で契約主義になり、農地の貸し借りは問題なく行われるようになっています。宅地については、法改正がまだ三年前のことであり、以前は借地権が強かったため、まだ皆かなり不安をもっています。

 不動産業者は、借地方式の借料金は「農業振興地域の除外」という許可がおりてからでないと答えられないといっています。コメ作の収入は努力しても八万円ぐらいにしかならないから、借料金は低くみても十倍以上と予想されます。農家も高齢者が多くなっているので、開発に賛成したくなるのです。

 「農業委員会、議会、商工会などいろいろあるから、実現するのはいつのことか」といっている人もいますが、大企業優先の政治であればゴリ押しは可能でしょう。

 最近、群馬県伊勢崎市の郊外で大型店ができ、市の中心部の商店街、さらに大型店まで廃業になったというニュースを見ました。大店法が廃止され、農地の開発が進めば、地域社会の崩壊が始まります。農業破壊の波に恐ろしさを感じます。


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