980705


介護ビッグ・バンが始まる

高齢者にあまりに過酷

老人保健施設職員 内藤 和美


 老人保健施設で相談員(ケースワーカー)をしています。今年から今の職場に移りましたが、前の職場でも老人介護の仕事を数年間やっていました。

 施設の規模はほとんど同じですが、今の職場は県都の周辺ということもあり、人口も増え続けているところで、経営的には楽なようにみえますが、むしろ同じような施設が次々に開設されているので、競争は激しくなっているようです。前の職場はいつも満床だったのですが、こちらはベッドが空いていることも多々あり、「大丈夫かな」と思うときもあります。

 比較的新しい施設なので、働いている人の中には、数年前に工場閉鎖になったところで働いていたおばさんたちもけっこういて、今のアサヒ靴の問題などを聞くと他人事でないような気がします。隣家の奥さんも工場閉鎖でクビになり、いまだに仕事はありません。

 さて、労働新聞でも時々取り上げられていますが、介護保険法が成立して、二〇〇〇年からの施行へ向けていろんな動きがでています。この制度の問題点や矛盾はたくさんあり、反対の声もいろいろなところで上がっています。

 他方、多くの施設や経営者の間ではむしろ、この新しい制度のもとで「どうやってもうけることができるか」ということが頭のなかにあるようです。うちの施設でも、これに対応するためにベッドを増やす計画が進んでいて、施設長や事務長はどうやって資金繰りをするかで頭がいっぱいのようです。

 介護保険制度には、要介護者のケアプラン(サービス計画)を作成する介護支援専門員(ケアマネージャー)が必要になります。その試験が、全国的には秋から各県で実施されるようです。先日、その養成講習会があり、出席しました。

くわしい中身ははぶきますが、一番印象に残ったのは、「介護保険制度は、高齢者介護のビッグ・バン」という言葉でした。たしかに現在の制度では老人医療と老人福祉が別々の制度になっています。政府は、医療費などを削減するために、患者負担や保険料の引き上げなどをやっていますが、それだけでは足りずに、高齢者介護を医療保険から切り離し、それはそれで国民の負担でやっていこうということです。

施設の側から見ると、いまある特別養護老人ホーム(福祉)や訪問介護(福祉)と老人保健施設(医療)、療養型病床群(医療)、訪問看護(医療)などの垣根を取っ払うということですから、そうした施設間の競争も激しくなるということです。

金融のビッグ・バンという言葉はよく聞きますが、結果として弱肉強食の世界になって、大きいところが生き残るということでしょうが、私たちのような職場でも、同じようなことがこれから起こってくるのでしょう。つぶれる施設もたくさん出てくると思います。

現場で働いている私たちからすれば、人材も足りないままどうやって実施していくのか、いまだに不思議に思えてなりません。サービスを受けられない人がたくさん出てくるのは目にみえています。

 施設としては、制度ができればそれをどう利用するか、ということになるしかない面もあるのですが、あまりにもコロコロ変る制度(例えば療養型病床群など)に、施設長もあきれ果てています。

 戦後、一生懸命働いて社会や家庭のためにつくしてきたお年寄りにとっても、あまりにも過酷な世の中になってきているような気がします。

 先日、厚生省の岡光元事務次官の判決がでましたが、ああいう人たちのつくった計画に右往左往させられることにほんとうに頭にきます。


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