980615


限界ギリギリでケガ続出
仕事が増えて、人増えず

軍手ぐらい支給しろ!

自動車工場労働者 大野 政志


 今週もまたケガ人が出た。隣の班の仲間だが、吊り上げた部品を足の上に落として五針縫ったという。もうこれで何人目だ? 四月になってから職場はエラク忙しくなり、泡食って仕事をしている状態だ。今まで一人でやるライン作業が三〜四点だったのが、今は六〜七点もやらされるようになっている。そんな状態だから、ケガ人が続出するのは当たり前だ。

 だいたい、ボルト一本入れるのだって人間の能力には違いがある。忙しくなれば、その仕事をこなせる人とそうでない人の差が出てくるというものだ。だから要領が少し悪い人は、限界ギリギリで働くことになる。課長あたりは、働くこっちの身になってライン編成するわけではないから、そこんとこの要領がわからないで現場とギクシャクしている。

 それでいて「業績あげるためにボルトを落とすな、落としたら拾え」などといっている(何でもこうしたボルトの消耗は一カ月で五百万円ロスなのだそうだ)。できるわけないだろう。忙しくなったうえに、課長がそんなだから、おまえは何をみているんだと言いたくなってくる。

 世の中こんなに不況だといわれているのに、私の自動車工場は四月から増産に入っている。三月までは時産(一時間あたりの台数)は二十六台だったが、今では二十八・五台になった。この円安を機会に、主にヨーロッパ向け輸出を増やしているからだ。

 自動車業界の世界的な大再編のなかで、業績が落ちているうちの親会社は必死に挽回しようとしている。株主総会の前ということもあったかもしれない、国内向けも最近から増産に入った。

 秋の総合経済対策で景気回復を見越して、とのことらしいが、労働者からすれば消費が上向くとはとても信じられない。ウソみたいだ。どうなるかわからない会社の経営に、われわれは翻弄されている。

 「変化に対応!」……最近の朝礼で部長の口癖だ。対応させられるこちらはたまったものではない。増産になっているにもかかわらず、人員はもとのままでやらされているからだ。

 今までは「外注」(派遣会社)で調整していたのが、それがない。同じ人員で二十六台が二十八・五台になるということは、ラインの現場で働いたことがないとピンとこないかもしれないが、大変なことだ。本当にこれで体がもつか、不安になってくる。

 最近会社は、またやけに改善提案を出してくれ出してくれと言ってくる。コスト削減が徹底して、なんでも細かいところまでチェックするようになっているのだ。この前は休憩所の灰皿の位置が悪いと言ったら、すぐに「改善」した。なんのことはない、もう数カ月前から休憩所の電気は消されていたのだ。灰皿は暗いところから日の光が入る明るいところに移しただけのことだ。

 ラインには振り回されて、休憩時にはたむろして暗いところでタバコをすっている光景は、人間らしい職場とはほど遠い。

 こんな状況なのに労働組合は何も言わない。労働者の安全対策だってもっとやることがあるはずだ。たとえば安全靴は、会社が半額しか支給しないからだれも履かない。軍手代の支給もない。滑り止めのシールのついた軍手を支給されるだけでも、仲間の安全は守れるのだ。ライン編成や人員の調整についても、会社に組合と協議させることがなぜできないのか。

 私はこれまでも課長や組合に何度も言ってきたつもりだが、ここまできたら仲間の権利を守る組合にするために本腰を入れてやるつもりだ。


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