書籍紹介
都会暮らしをしてきたサラリーマンが田舎に来ると、商店街のシャッターが閉まるのが早いことに驚くらしい。たぶん、シャッターの閉まった駅前商店街を通り抜け、裏道にある飲み屋に座ってから、「大型店は夜の九時までやっているぞ。商店街も消費者のニーズにあわせて、企業努力をすべきだ」なんてグチをこぼしているのかもしれない。
そんな人に、この本をすすめたい。
著者は、商店街を社会資本として認めていこう、商店街を地域の共有財産として考えていこうと呼びかける。だから、大型店の出店を値段とか便利さといった「流通の問題」として議論するのではなく、自然環境もふくめて「自分たちの地域社会をどうするのか」という見方が大切であると訴えている。
「商店街が八時に店じまいしてしまうのはたるんでいる。さぼっているのではないか」という消費者の味方を自称する連中に対して、「日本の商店街は、ある面で零細商店主の『生活権』獲得の歴史だった。しかし、その『生活権』も労働基準法のように法律で保障されたものではないから、権利としては弱い。それを『商店街は既得権益にしがみつき、努力しないから大型店に勝てないのだ』という話に矮小(わいしょう)化してはいけない」と、著者は反論していく。
さらに、「大手流通資本と個人商店の争いはハンディキャップ戦が社会的正義にかなう」と続ける。
大型店は資金や人材確保、宣伝広告など、どれをとっても個人商店を問題にしない体力がある。商店街が努力しないから勝てないのではなく、同じ土俵で戦ったら勝負は明らかというだけのことなのだ。
「町には中心性がある。中心商店街が元気を失えば、地域経済が活力を喪失する。そして地域文化が衰退する。祭りなど地域社会の結束に寄与している行事も、商店街が中核になっている場合が多い。商店街がパワーを喪失してしまえば、もはや祭りを催すのもかなわない」
表現が硬いのが少し気になるが、著者に大きな拍手を送りたい。
値段が安いこと。品ぞろえが豊富なこと。営業時間が長いこと。これら消費者のニーズににこたえているのが大型店であり、それに反対する商店街は既得権益の権化(ごんげ)であるという主張に対して、「地域商業破れて大型店あり」と真正面から反論している。
規制緩和の流れのなかで、大型店の出店がますます自由になっていく。出店だけでなく大型店の二十四時間営業すら認めようとしているなかで、「中心商店街が元気を失えば、地域経済が活力を喪失する」という指摘は、声を大にして伝えていきたい。
発行・岩波書店 定価・千八百九十円
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