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映画紹介

「黄落」(こうらく)

介護を社会問題と指摘


 「黄落」(こうらく)は、すでにテレビドラマとして放送されたものを映画化したものである。原作者の佐江衆一氏は一九八三年に横浜で起きた浮浪者連続殺傷事件を描いた「横浜ストリートライフ」、八五年には介護負担から老夫が老妻を安楽死させた事件を扱った「老熟家族」などを発表した社会派作家だ。

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 蕗子(市原悦子)は五十九歳の主婦。子育てを終え、料理教室を開きながら作家である夫・友明(愛川欽也)と共に悠々自適(ゆうゆうじてき)の暮らしを送っていた。近所には友明の九十一歳の父・定吉(西村晃)と八十二歳の母・キヌ(丹阿弥谷津子)が暮らしていた。キヌの入院によって蕗子は、昼は身勝手な定吉の世話、夜は痴ほうのキヌの介護で不満が募ってくる。やがてその不満が夫や子どもに向けられることになる。

 そしてキヌは蕗子に「ありがとう」という言葉を残して亡くなる。定吉も痴ほうが進行し、車いすの生活になる。

 これだけだと単なる暗い話でしかないが、介護を通じて三世代の家族のきずなが描かれている。娘は蕗子に「そんなにがんばることはない。できないことはできないと言いなさい」と励ます。息子も介護を手伝うようになる。

 木もれ日の差し込む雑木林の中で定吉の車いすを押す息子。明るさを取り戻した蕗子と友明は優しく見つめる中、黄色い落葉が舞い落ちる。

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  「黄落」は佐江氏の経験から高齢社会のなかで、介護をいかに行うべきか、福祉はどうあるべきかを問うている。 友明は母のために役所にいくが「三カ月以上寝たきりでないと、そのサービスは受けれません」という職員の言葉に「それでは貧乏な高齢者はどうなってもよいというのか」と詰め寄る。

 蕗子はキヌが暴れたことで病院からは付き添いを求められ「完全看護ではないんですか」とたずねると看護婦は「そうなんですが。看護婦が絶対的に足りません。どうしてもと言われれば一日一万五千円で付き添いさんを雇われたら」と言われる。

 こうしたちょっとした所に現実の問題を示し、単に家族の問題にせず、社会問題として介護を提起している。

 なお丹阿弥谷津子、西村晃などの演技はもちろんだが、河原崎長一郎もキラリと光る演技をみせている。また、多摩川の自然をさりげなく随所に使いながらの演出もよかった。ちなみに西村晃にとっては遺作となっている。

 「黄落」は全国で自主上映の予定。ぜひ、あなたの町でも自主上映を。    (S)

連絡先 「黄落」全国普及会電話 〇三(三四八六)六八八一


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