980515


98春闘

妥結提案に全員が反対

ガンバロウ! 職場の仲間たち

堀田 信男 トヨタ関連自動車工場労働者


 トヨタの春闘も終了した。

 結果は賃上げ率で二・六二%、一時金は満額、トヨタ六・一カ月、関連企業の中堅組合以上が五・五カ月。時短は一日十五分の要求に対して、技術系のみ十分の回答で決した。この五日の給料から賃上げ後の新賃金を受け取ることになる。

 私はトヨタの一次下請け、組合員二千人の中堅組合に属している。賃上げ率ではトヨタと同率でも、もともと要求ベースがトヨタの八割程なので、平均賃上げ額は七千円ちょっとである。そこに職能給や考課配分の影響を考えると、私の賃上げは五千円くらいだろう。これでやっと基本給が三十万円に達することになる。

 四十五歳、高校生の子供を二人かかえて、三十万円の基本給。今は残業がほとんどないので手取りで二十万円あるかないかの賃金である。これでどうやって暮らせというのだ! 残業がなくなって久しいが、すでに定期や積立貯金は解約し、生命保険もついこのあいだ子供の入学費用で消えてしまった。

 二・六二%という、生活実態からはまったく話にならない低額回答に対して、組合執行部は「誠意ある回答だ」、「この不況下で業績の向上が望めないなかでよく頑張った」と言っている。職場からの「残業が激減して、今の賃上げ水準では生活が維持できない」という声に対しては「生活スタイルを見直さなくてはいけない」などと説教をたれるありさまである。

 こんなものが労働組合か!残業に頼らずに生活できる賃金を実現することは労働組合の基本的な目標であり、使命でもあるはずである。しかし今のトヨタの組合指導部にはそんな自覚はかけらもない。組合員から批判されて口にする言葉は会社の人事と何ら変わるところがない。組合員の気持ちが労働組合から離れていくのも当然のことだ。

体を張った勇気ある発言

 ところで、私の職場は執行部の妥結提案に反対した数少ない職場の一つである。五十人中、賛成した人は職制を含めて一人もいなかった。他の職場が全員賛成で発言するものもほとんどいない状態のなかで、特異な職場と思われているかもしれない。

 だが、実際は他の職場の組合員の意識と大きく変わるところはない。違いがでるのは、ほとんどの職場の職場集会では、代議員が執行部案の提案をして、意見が出ないまま短時間で全員賛成したということにして終わらせているからである。

 私の職場では活発な発言があり、よく議論がなされている。採決も挙手をもってしっかりととる。こうして組合員の本音が引き出せれば、春闘史上最低の執行部案に対する態度はおのずと決まってくる。職制の発言も、組合員の体を張った説得力のある本音の前では自制のきいたものになっている。なかには労働者としての、しっかりした観点から発言する職制もいる。

 「体を張った本音」といったが、トヨタ関連の職場では本音を言うことは勇気を要することである。組合執行部への批判は、会社批判と同義であり、それは昇進、昇給での不利益を覚悟しなければならないし、場合によっては配転や出向の対象になることもありうる。だから文字通り、体を張らなければならない。それがいやで安全地帯に身を置いていたければ口を閉ざしているほかないのだ。

 私の職場の人たちのなかには、何人かこうした状態に臆せず自分の考えを主張できる人がいる。今回の春闘妥結提案に反対の意見を言った人たちも、大勢はすでに決していることは百も承知で発言しているのだ。それでも「反対だ」というのは労働者としての誇りがそうさせていると私は思っている。

 また私を含めて数人が今の組合を変えようと活動していることを理解してくれて、それを支持し応援しようという気持ちの表れでもあると思っている。

 私は、そういう職場の仲間の期待にこたえて民主的な労働組合をつくるために頑張りたいと思う。


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