980425


会社は史上最高の収益! 妥結提案、賛成たった3人

俺の賃上げは史上最低

仲間と共に闘いが始まる

自動車工場労働者  赤木 孝浩


 朝のミィーティングの終わりがけに組合の職場委員のP班長が、「今日の就業後に賃上げ妥結提案に関する職場会を開催しますので、帰らないで会議室に集まってください」と呼びかけた。

 P班長に誰も反応せず、そのままラインの持ち場について工具の点検をしたり、部品を並べ直したりしている。みんなシラけていた。職場会でどんなに議論をしても、職場意見を集約する職場委員会ではもみ消され、最終決議機関である評議会では組合執行部の妥結提案が満場一致で採択されてしまうことは誰も知っている。

 「職場会で組合や会社を批判する意見を吐けば、職制が人事に告げ口して査定が悪くなるから何にも言わないほうが身のため」というのがこの会社の処世訓となっている。

 しかし、この日の職場会はちょっと違っていた。P班長が執行部の妥結提案を説明したあと、意見討論となったが、A組長が口火を切った。「山一の社員は職を失って賃上げどころではない。当社も販売が思わしくないのに不十分だが賃上げがあってありがたい」といきなり反対意見を抑えるような発言を始めた。

 ムッとして手を挙げながら立ち上がろうとすると、その私をさえぎるようにRさんが発言した。「俺はおかしいと思うよ。会社は史上最高の収益をあげているのに、何で俺の賃上げは四千円なんだよ。俺は会社生活も長いから今までは賃上げは平均額より少し多かったんだ。ところが職能給と高齢者ほど低くなる年齢給が導入されてから賃上げ額は下がる一方だ。妥結提案には反対だ」と。

 ところがP班長は、「今までいい思いをしてきたから仕方ないんだ。第一、その年で今の給料を外で稼ぐ自信があるのか。ないなら文句を言うな」ときた。

 キレた私は「おい! それが職場委員の言うことか、意見をきちんと聞け!」とつい大声を出してしまった。

 しかしP班長は「俺は妥結提案に賛成だ。なぜなら、若い俺たちの賃上げは中年のRさんの二倍以上になるからだ」と誇らしげに言い切り、これを助けるようにA組長は「誰かの賃上げが少なければ誰かの賃上げが多いのは当然だ。みんな敵同士なんだ」と言いだした。私はあきれ返ってしまった。

 このあとQ君が同業他社のH社より一時金が少ないこと、同業他社のN社は業績がよくないのに当社と賃上げ額はほとんど同じであることを指摘した。それで「賃金とは何か」を私が講義することになり、議論は盛り上がったが、「帰りが遅くなる」というA組長の茶々で、採決の運びとなった。

 「執行部提案に反対の人は挙手してください」とP班長が言うと、Rさん、Q君、私の三人が挙手。するとP班長は「では、残りの十七人は賛成ということで、この職場としては圧倒的多数で執行部提案に賛成と報告しておきます」と言う。

 「待てよ! いい加減なことを言うな。誰が賛成なんだよ。ちゃんと採決しろよ」と私が言うと、いやな顔をしながら「賛成の人……」とやりだした。A組長と彼の腰巾着のX、V班長が声をあげ勢いよく手を伸ばしたが、残りの人は知らんぷりだ。

 「保留十三」

    ◇    ◇

 駐車場に着くと、RさんがQ君、Jさんと待っていた。「お疲れさん」と声を掛けると、五十五歳になるJさんは「俺も本当は反対なんだが、あんたたちみたいに勇気がないから言えないけどね。でもみんな、同じ気持ちなんだよ」とすまなさそうにしていた。Rさんが「何でも言えよ。赤木や俺が応援するから」と言うと笑っていた。

 後日の評議会の採決では、反対一、保留三となり、満場一致はなかった。


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