980405


ルポ

北陸大学を訪ねて

学園に自治をよこせ

理事長の退陣求めて闘争

労働青年団・藤原 紀緒


 「学内に盗聴器」「国に虚偽報告二度 文部省、異例の行政指導」――このような見出しで新聞に紹介されている大学がある。石川県金沢市にある北陸大学(北元喜朗理事長)だ。北陸大学ではここ数年、その経営体質をめぐる不祥事が再三報じられており、教職員組合、学生による学内の民主化と経営の健全化をもとめる闘いが高まっている。私たち日本労働青年団は、こうした学生の自主的な運動を支持する立場から、金沢へ向かった。

 北陸大学は、金沢市内中心部からバスで二十分くらいの場所にある。バスの車窓からは、まるで選挙ポスターのように随所に張られた北陸大学のポスターが見える。

 バスに揺られて町中を抜けると一気に視界が広くなる。雪をかぶった山々が見え、その中腹にめざす北陸大学があった。大学のまわりには何もなく、外の世界から隔絶された感がある。また、大学がある一帯は大学関連の企業グループが押さえ、住宅地建設も盛んに行っている。この用地の取得をめぐってもさまざまなうわさが絶えず、住宅建設の赤字の補てんに大学予算が流用されたという話もある。

 バスを降り、大学構内に入ると、ほとんどの大学にはサークルがあるのだが、そうしたものも見受けられない。食堂の裏にプレハブの建物がいくつかあり、唯一「サッカー部」の札がかかった部屋があるが、他の部屋には標識もない。

 「本部棟」には、理事長室や研究室、売店などが入っている。一階のエレベーター前には絵画二点が飾られている。これは数年前、薬学部から新しい顕微鏡の購入を求められたが、理事会側は予算がないとして拒否、その年にこの絵画を購入し教職員や学生が抗議した、といういわくつきのものらしい。

 北陸大学がかかえる問題は数多くある。例えば、全学教授会で学長選挙のための話し合いが進んでいたにもかかわらず、理事会側が一方的に外部から学長を据えようとし、後に一方的に撤回した。

 また、文部省に対する虚偽報告が幾度もある。体育館の建設に際しては、二度にわたって虚偽の報告をした。

 数千万円にも上るとされる教職員への残業手当未払いや、教職員組合が使用する教室内に盗聴器が仕掛けられるということも起こっている。

学生の6分の1が署名

 こうした異常ともいえる経営体質や非民主的な運営に対し、教職員は労働組合を結成して「理事長の退陣」を要求しており、最近ではついに大学の主人公である学生からも声が上がった。

 今年二月、学生有志が北元理事長の退陣を求める六百八十一人の学生の署名を集めて文部省に提出し、記者会見を行った。学生たちが求めているのは、経理の公開、学生の自治の確立、学費の減額などであり、在籍学生の約六分の一が署名した。

 過去に大学理事会を批判したビラをまいたとして、学生が理事会側職員によって監禁され、北元理事長は「放学」という言葉で脅かしたという。記者会見で学生の一人は「学生の自治会活動もなく、理事会が独断専行している体質を変えたい」と訴えている。

大学への不満と怒りが充満

 数人の学生に話を聞いてみた。話を聞いた多くの学生が、理事長退陣を求める署名に「加わった」という。学生たちは大学側に何を求めているのか、彼らの声を紹介したい。

 「部活動をする場がない。入学金の額(約百二十万円―私学文系としては割高)に比べて学内の設備は悪い」

 「キャンパスの噴水に一億円使ったという話がある。どうなっているんだ」

 「学食が高い。大学の関連会社が経営しているのだが、独立採算制をとっていて大学からお金が一円も出ないからだ。普通の大学なら生協でなくても補助金くらい出るはず。大学のまわりにはお店がないので切実だ」

 「学内に制服を着たガードマンがたむろして雰囲気が悪い」

 「運動施設も整備が不十分なグラウンドだけ。アスレチッククラブがあるが学生は五百円出さないと利用できない。うわさでは二階にサウナがあり、理事長専用らしい」

 「とにかく学内に自由がない。学園祭の出展にもいちいち口を出してくる。やめてほしい」

 また、大学をめぐる問題が表面化して以降、金沢市内の予備校などで「あの大学はやめたほうがいい」と言われているという。

 口々に大学に対する不満や怒りが上がるのには私たちの方が驚いたくらいである。

   ◇  ◇  ◇

 十八歳人口が減少し、大学の淘汰(とうた)が始まった今日、多くの大学でその経営や学生の自治をめぐって問題が起きている。最近では財テクに失敗した日本医科大学による日本獣医畜産大学の経営権の移譲をめぐって、獣畜大の学生が抗議の声をあげ、全学的な運動で断念させている。今後も多くの大学が経営難に陥り、借金や経営の多角化などで学生からの収奪が強まることが予想される。

 それら大学当局の動きに対し、学生の闘いも噴き出すに違いない。私たち労働青年団は大学をめぐる学生の行動に注目し、大学のあり方や理念をめぐる問題としてとらえ、学生の要求を支持し、運動を巻き起こすようにしていきたい。


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