980405


「こりゃ、革命だよな・・」

無風の町にも変化のきざし

水野 美雄


 先日、仕事で赴任していた九州を離れて東京に引っ越すことになり、その報告がてら、久しぶりに関東にある実家に帰省しました。

 私の実家のある市は、農業以外にこれといった大きな産業のない町です。しかし最近は、大学誘致やコンサートホールなど各種施設を次々に建設しています。

 市長は当然にも保守系で、四年前は無投票で当選、市議会選挙も前回は無投票でした。私が帰省したのは、ちょうどこの「風の吹かない」市の市長選挙の直前でした。少し前まで「磐石」と思われていた現職市長に対抗して、突然、保守系の対立候補が出馬することになり、町中も私の実家でも、その話題でもちきりでした。

 市は、以前から自民党衆議院議員のA派とB派の勢力が拮抗(きっこう)していました。しかし、B議員が一時期新進党に籍を置いていたため市政での影響力が低下、A議員派が市議会でも圧倒的な数を占めるようになりました。現職市長も当然、A派に属していますし、その後援会員数は市民全人口の五分の一にも達するといわれています。普通に考えれば、こんな「強い現職」に対抗するのは「無謀な」ことですが、現職陣営は大慌てで与党市議団を動かし、決起集会を開くなどして組織固めを図っていました。

 今回の市長選挙での急な対立候補の立候補は、自民党に復党したB派の巻き返し、あるいは次期衆議院選挙での小選挙区候補の座をめぐる前哨戦(B派の議員は現在比例区)、と地元紙は報道していました。

 背景はそれだけではないようです。地元建設会社間の争い、さらに、市周辺への首都機能誘致に慎重姿勢を崩さない現職に対して、対立候補は積極的で、県知事とも歩調を合わせているといわれています。また、大型プロジェクトを続けてきたため債務が膨らみ、財政の自由度が低くなっている市の財政問題があります。現在の市財政は借金返済が多額にのぼるため、新規プロジェクトは全県下で最低レベルとなっています。それをとらえて、対立候補が「市民のために使える財政が少ない」と現職を批判すれば、現職は「当面は債務返済が重点。返済のメドはたっている」と応酬しています。

 しかし、市民の最大の関心事は、日々の生活です。近隣の町と市を結ぶバイパスの建設、バイパス通りへの大型店の進出で、市民の行動範囲は大きく変わってしまいました。大型店におされ、旧来の商店街では廃業する店が増えています。ここ数年で、私の叔父の経営する食品店、高校の同級生の実家の旅館、地元スーパーなどが次々と倒産しました。そうした状況に対して、市長はやっと最近になって「振興策の検討」を始めたそうです。

 商店を経営している私の親父は、地元商店街の振興のために陳情で県庁に通い詰め、獲得した二千万円の補助金で街路樹を整備したことを話してくれましたが、同時に「この程度じゃ、どうしようもないよな」とポツリと言っていました。

 久しぶりに酒を飲んだ肉屋の友人は、最近の経済の状況を話しながら「こりゃ革命だよな」と言います。彼の言う「革命」が、何を指すのかはよくわかりません。しかし、深刻な中小商業者にとっては、A派かB派かはどうでもいいことで、「誰でもいいから何とかしてくれ」というのが本音ではないでしょうか。

 選挙での無投票が続き、「無風状態」だった市にも、「改革」政治の影響がじわりじわりと及んできたようです。選挙は現職市長が勝ちましたが、市民の意識も含めて、「何かが変わりつつある」。そう感じた帰省でした。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997,1998