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貸し渋り、リース解約…

中小企業のこの苦しい実態

もっと賃上げ中小対策を

中小企業労働者  小林 勇


 工場などに工具や資材などを販売する中小企業で働いています。この会社で働き始めて十年近くになります。その間に二十二人いた従業員は十五人になりました。定年退職した人の補充がされないからです。

 さて、最近は「貸し渋り」が騒がれていますが、私の働く会社も例外ではありません。銀行からの借入金など詳しい数字はわかりませんが、ここ一、二カ月、とくに今年に入ってから、銀行と経営者の電話でのやりとりがものすごく増えています。

 銀行はバブル以降、とくに最近は金融ビッグバンに備えて信用調査を厳しくしており、経営状態のさぐりを入れられているようで、経理や社長のところに銀行から頻繁に電話がかかってきます。去年の九月決算で収益などの数字が悪かったので、資金貸し出しや、回収が厳しくなっているようです。

 経営の具体的なことはわかりませんが、「定期を解約して支払いにあてる」とか「証券会社への信託投資を解約する」などの話が聞こえてくることがあります。

 また、九月決算の内容を見ると、車のリース会社がリース契約の更新を断ってきていました。会社では車を十台以上リースしているのですが、リース会社も信用調査をしており、資金の貸し渋りと同じように「車の貸し渋り」が起きています。新規リースを断られると、新しく買うか、別の会社でリースするしかなく、小さい会社ではかなりの経営圧迫になります。

 さらに保険会社、日産生命破産の影響もあります。会社では日産生命と契約していました。会社が契約する生命保険は資金運用の面が強いのですが、これが破産で満額返ってこないことになり、実質資産が目減りしたのです。そういうことが一つ一つ、じわりじわりと真綿で首を絞められているような状態になっています。

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 そもそも、中小企業が銀行から借りる資金は、支払い能力がないのに借りているわけではありません。仕入れや販売は現金でなく約束手形を使うのですが、入金の期限と支払いの期限が違うため、その間の運転資金として銀行から借り入れるのです。どの会社も運転資金を借り入れて、仕入れと支払いのバランスをとります。銀行が貸してくれないと、仕入れ代が支払えず、次の仕入れができなくなるのです。また、手形は現金と同じように別の取引先との支払いに使われたりもするので、直接取引のない会社が不渡りを出しても、芋づる式に連鎖して資金がとどこおり、連鎖倒産を招きます。銀行の貸し渋りは、中小企業に本当に大きな打撃を与えるのです。

 まわりの取引先でも同じような状況があり、お互いの経済活動や、商売全体が委縮しています。今まで百ケース単位で注文があったのが、その時に必要な分だけ少しずつ注文がくるようになったりしています。そのため、全体の出荷量は減っても、運送回数は増え、経費が増えてしまいます。そういうところからも景気が停滞していることが実感できます。

 運送業に勤める友人の話では、今後三年間の賃金カットが打ち出されたそうです。賃上げゼロだけで大変なのに、賃金カットではどうなるのかと言っていました。以前の景気の悪さというのは特定の業種でしたが、今は全体的に悪くなっていて、どの会社に行ってもみんなさえない顔をしています。

 そんななか、最近、二人の労働者がリストラされました。小さい会社で社長に直接言われるので、二人ともその場で了解してしまい、次の日から出勤してこなくなってしまいました。社内の雰囲気も悪くなっているし、労働者の中で疑心暗鬼のようなことになっています。組合はありませんが、やっぱり労働者が団結していくことが重要だと実感しています。

 景気対策ということで二兆円の特別減税がされ、私は所得税三万六千円が戻ってきました。でも、三カ月に分割して天引き額から差し引きされるので、「減税された」という実感は全くありません。賃上げもままならず、ボーナスも「かろうじて」という状況で夏のボーナスはないかもしれないし、「減税されたから何かを買おう」なんて思いません。これで購買意欲が上がるわけがないし、景気対策につながらないでしょう。労働者の賃金を上げ、中小企業対策もきちんとされなければ、景気回復はのぞめないと思います。


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