980315


貧乏人のための世の中を

低賃金で自殺した人、家を売った人

これが世界的企業の賃金?!

自動車工場労働者  近藤 渉

 昨今のテレビをみると、証券会社、銀行などのMOF担(大蔵省担当)によるワイロで政治家や官僚の笑いが止まらなかったことが暴露されている。そして、そのあげくの金融機関の経営破たん。尻ぬぐいにはおれらの血税が投入され、銀行は行員にリストラを強いる。それで「株価も回復」なんて、まったく頭に来ることが多い。ほんの一握りが「しゃぶしゃぶ」食ったりしているが、「おれもしゃぶしゃぶ食べに連れていけよ!」なんて思ったりして、貧乏人はつらいよなあ。

 貧乏人といえば、個人の自己破産申し立て件数が過去最高になったとのこと。失業率も過去最高だし、個人消費も落ち込んでいる。消費税増税でものが売れなくなったんだから、消費税はやめろよ、と思う。それに、二〇〇〇年から「保険あって介護なし」の介護保険も導入される。これじゃ、貧乏人は車なんか買えないぞ! と思う。

もっと賃金上げろ!

 そんな時、おれの働く職場でも今年の賃上げ交渉が始まった。

 賃金引き上げ一人平均一万三千円、年間一時金はホンダが六・三カ月、トヨタが六・一カ月などとなっている。要求額が低いと思うが、まわりの仲間は「八千円ぐらいしかとれないだろう、去年もそうだったから」とすでにあきらめムードが強い。

 会社側は黒字になったらアメ玉しゃぶらせてやる(賃上げ)と言っていたが、「段階的に上げる」とだまされた。組合役員は「為替差益は本業でのもうけではないから、賃上げしない」と言うが、為替差損の時はそれを理由に賃下げしたのである。「同じ仲間じゃないか、そう言うなよ」と、思わずそう言ってやった。

大企業は責任果たせ

 有給休暇だって、本来の日数の二割しか消化できない。入社してからずっと使えずに捨てられ、有休の買い取りもない。これも「一人当たり五百万円の給料を払わないといけないから、会社が有休など完全消化するようなことするわけがない」と言う。「こんな会社なんだから、いやだったら辞めろ」と言われ、頭に来たので「中小企業でさえ買い取りとか完全消化しているところはある!」と言ってやった。こんな多国籍企業が社会的責任も果たしていないなんて、情けない。「雇用の確保、もっと人を入れて大幅賃上げで景気を刺激させる」なんて、利潤追求の資本主義社会では望めないのか…。

 今日の新聞にも「厚生年金基金を日立が給付下げ、来月から月二万円減、大手で初」なんて書かれていた。おれたちのところも今、厚生年金については検討中だから、そのうちこうなるのかと考えた。実質賃金は減り、生活は悪化の一途をたどる。

時間も自由も奪われ

 おれたちの職場には一年間のノルマがあり、(人が少ないため)仕事が終わってから他の仕事を覚えないといけない。これは残業手当もつかない無料奉仕のサービス残業である。実地は時間内にその仕事が出来ること、学科は各ポイントのネジの締め付け手順と他のチェック、何をやるか、品質が保たれているかなどである。人より金がほしいと思い、何カ所も覚える人もいる。

 品質管理(QC)サークル、改善提案なども時間外にいろいろある。それに車は一人一台売れと言われ、五台以上売ると表彰される。企業に時間も自由もすっかりささげるのである。これは能力主義による賃金格差が生じているためだ。過労死で死んでも労災保障もない。今まで心不全で死んだ人が何人いることか。共稼ぎしないと食えないといって働いている人、休日出勤の手当がないと生活が厳しい人、自殺した人、家を売った人もいる。「資本主義っていいな」と誰が思うか!

 職場のみんなに笑顔が戻るのは、ラインが止まる休憩の十分間と飯の時だけ。利潤追求のため、多くの仲間が犠牲になっている資本主義を終わらせ、貧乏人のための世の中をつくらないと、おれや君の子孫までこんなことの繰り返しになる。

 有休が少なくてスキーが好きなのに、長野オリンピックも見に行けない。田舎にも帰りたい。小さい頃の段々畑はすっかりなくなってしまったが、なつかしい山や川…。でも銭も暇もない。「貧乏ひまなし」とは誰が言ったか知らないが、大当たりだと思う。


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