980305


怒りうずまく職場集会

営業利益は過去最高

賃上げはたった1000円?!

トヨタ工場労働者  青木 健


 バブル崩壊以後の長期不況、消費税増税や橋本「改革」政治による医療費の負担増など国民犠牲の悪政で国民の消費はすっかり落ち込み、好況といわれてきた自動車産業もついにカゲリが出たといわれています。それでも、工場では一時期のような長時間残業はないものの、ラインが動いているうちはトイレに行けないほど忙しいことに変わりはありません。
 しかし、急激な残業減は労働者の生活設計や生活スタイルを直撃しており、生活苦によるサラ金やカードローンによるトラブルも急増しています。また、事務・技術職の一部では裁量労働制が導入され、さらに賃上げや一時金の管理職による査定幅のプラスマイナス二〇パーセントへの拡大により、サービス残業やゴマスリが横行し職場は険悪な雰囲気と不満で満ちみちています。
 会社は「景気は最悪」「先行き不透明」「シェア低下」など相変わらずの不況宣伝を繰り返していますが、国内生産は若干減ったものの海外生産ではそれ以上に伸びています。そして、今期の営業利益は、円安差益もあって創業以来最高の五千八百億円となっています。労働者を絞りあげた血の結晶です。

格差広げる賃金体系
 ところが、労働組合の賃上げ要求を聞いて私たちは腰を抜かすほど驚きました。過去最高の業績を上げたというのに、要求額は連合の要求基準より低く、一時金にかんしては昨年並みであり、さほど業績のよくない同業他社のA社より低いというのです。さらに驚いたことは、今年の賃上げが露骨な中高年切り捨ての労務政策とリンクしており、それを組合が率先して進めようとしていることでした。
 組合は要求案を掲載した機関紙の中で、「賃上げ要求は組合員平均一万三千円、あなた自身の要求額は?」というページを設け、一覧表から組合員個人の要求額がわかる「計算表」を提示しました。これによれば、年齢給引き上げ分は三十四歳の七千円をピークに次第に減少させ、五十代後半では逆にマイナス三千円となっています。これだけで、すでに一万円の格差となりますが、さらに中高年者のほとんどが該当する現職位三年以上の組合員には習熟昇給ゼロとし、これに基本給引き上げ分、職位別引き上げ分、能率給などいずれも上に厚く下に薄い金額設定が加算されるようになっています。 こうした賃上げ要求では、平均一万三千円というものの同じ仕事をしても三十四歳の労働者は一万四千六百円要求となりますが、五十代では三千円六百円要求にしかなりません。賃上げの会社回答は満額はありえませんので、税金や社会保険の負担増もあり実質的な賃上げは千円程度になってしまうのです。年齢が高いというだけで熟練労働者の賃上げは千円程度にするというのです。また、大卒者は同じ三十四歳でも二万九百円要求となり、社内での賃金格差は大きくなるばかりです。

中高年切り捨てに キレた!
 組合の職場集会でも組合員の怒りは爆発しました。とりわけ賃上げは千円程度の中高年労働者の怒りはすさまじいものでした。「こんなバカな賃上げがあるか!」「早く会社をやめろという意味か」などの言葉も飛び交い、「時代の流れです」とか「中高年でもがんばれば昇格できます」という執行委員の言い訳は空を舞うばかりでした。
 現在、工場労働者の約半数を占める中高年労働者は、七十年前後に毎年数千人規模で全国から集められたもので、会社はこうした労働者たちを「乾いたぞうきんを絞る」ようにこき使って、世界的企業にのし上がってきました。今日、会社があるのもこうした団塊の世代の中高年が「若いときは低賃金でも将来は報われる」と信じてまじめに働いてきた結果でもあります。
 ところが、会社と組合がやったことは深夜勤務では疲れて能率が上がらないので、早朝出勤させて中高年労働者をさらにこき使うことであり、定年までラインでこき使うための「六十歳まで現役」キャンペーンであり、中高年切り捨ての賃上げ政策でした。役に立たない奴は捨てる!。用が済んだら捨てる!。チューインガムのように吐き捨てる!。これが、世界的優良企業の実態であり、資本主義の実態です。
 なりふり構わぬ会社の攻撃に、職場では怒りの声が日に日に強くなっています。そして、私自身も怒りに身が震えるのを感じました。「キレた!」のです。しかし、私はナイフは使いません。職場の仲間と団結を強めて労働者の要求が実現できるようにがんばりたいと思っています。


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