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バイトより安い正社員?!

安心して働ける職場を

川上 万里子


 地方から上京して東京の短大に通い、卒業してもうすぐ二年になります。私は「労働新聞」の直接の読者ではありませんが、友だちが読んでいて、ときどき話を聞いています。私は、この二年間に「再」就職活動を二回もしましたが、今日はその時の経験や感じたことを書こうと思います。

 卒業してすぐに就職した職場は、十人ぐらいで社長とその家族が中心になって経営している小さな会社でした。仕事は自分の望んでいた香料などの分野で、「天職」と思えるほどだったのですが、一年半ほどで、辞めざるを得なくなってしまいました。人間関係の小さなトラブルが原因なのですが、小さくて親族経営の会社で、いられなくなってしまったのです。

 そこを辞めて、すぐに再就職するために職探しを始めました。失業保険ももらえず、少ない貯金といくつかのアルバイトで食いつなぎながら、二カ月後、やっと仕事が決まりました。

 求人雑誌で見つけた出版関係の職場で、「未経験者可」ということなので面接を受けに行きました。三十人ぐらいの応募の中からやっと採用され、喜んで仕事に通いましたが、しばらくすると、上司が「即戦力で経験が五年ぐらいある人でないと…」と言い出したのです。すでに新しい人を募集をしているようで、机には履歴書がたくさん置かれていました。そして働き始めて二週間目の日、「明日から来なくていい。給料は一カ月分を後で振り込むから、それでいいね」と…。

 面接の時にも、経験は全くない、ということは話してあったし、徐々に覚えていけばいいからといわれていました。一生懸命仕事を覚えようと、なれないワープロやパソコンの勉強も始めていたので、くやしくてくやしくてしかたなかったのですが、まだ見習い期間で、まわりに応援してくれる人もなく、たった一人で何も言えずに涙をのんで帰りました。

 クビになったのはまったく初めての経験で、全人格を否定されたようで、ものすごく落ち込みました。家賃の支払いも迫っていたし、すぐにでも次の仕事を探さなければならないのに、しばらくは何もすることができませんでした。

 そしてまた二カ月ほど過ぎ、今の仕事を見つけることができました。今の仕事はレストランのウエイトレスですが、一応正社員です。でも、給料は最初の仕事に比べ、約十万円も減りました。基本給を一日あたりに計算すると、四千八百円ほど。職場にはアルバイトも何人かいますが、時給計算の彼らの方が一時間当たりの給料は多くなっています。それに、残業手当が一円もつきません。一度ほかの人が経理に「残業手当がついてない」と言ったのですが、「一年以上働かないと残業手当はつかない」といわれたらしいです。それでも、ほかの社員もついてるという話は聞いたことがないし、待遇が悪いので長く働き続ける人はあまりいません。

 給料明細も、私たちにはよくわからない、ABCなどの記号で表示されているし、経理にきいても、きちんと答えてくれません。

 さらに先日、「今経営状態が悪いから、保険は国民健康保険にしろ」と言われ、有無を言わさず、社会保障も切り捨てられてしまいました。社会保障がなく、残業手当もつかないのでは、アルバイトの方が割がよいのです。

 今の職場を辞めた人が、次の職場で「交通費の定期代が六カ月分前払いされるし、給料や待遇がぜんぜんちがう。ボーナスが四カ月ぐらい出る」とびっくりしていました。その職場には、組合がきちんとあるそうです。

 今まで「自分に合う仕事、やりがいのある仕事を探したい」と思っていたけど、この二年で、仕事には期待しないようになりました。むしろ、組合がきちんとあって働く人の権利がきちんと守られる職場で、長く働きたいと思うようになりました。


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