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不況の重み、ズッシリと

ボーナスが消えそうだ

零細企業労働者  岸山 隆


 ボーナスの季節がやってきました。でも、零細企業に働く私には、たんなる寒い季節だけになりそうです。これまでいろいろな仕事をしてきましたが、会社と名がつく場所で働いていれば、夏と冬にはボーナスが出ていました。もちろん、ボーナスというより寸志みたいな金額のこともありましたが…。

 勤め先は、工場向けの資材販売会社です。こじんまりした会社ですから、工場がお客さんの雑貨屋みたいな仕事です。いまから五年ほど前には、その月の売り上げが会社始まって以来の記録になり、お祝いの緊急宴会をやったこともありました。

 そんなバブル景気も年ごとに冷え込んできて、昨年あたりから売り上げのグラフがどんどん下がってきました。右肩下がりというのでしょうか、みんな一生懸命やっているのに、取引先からの注文がどんどん減り、注文があっても値段の切り下げを求められています。

 ある日、いきなり納入単価を二五%下げろと一方的にいってきた会社がありました。日本を代表するような大企業です。理由は単純明快で、販売競争が激しくなってきて、同じ仕事をしても、儲けが二五%も減ってしまったから、資材の購入や下請けの工賃を、それに見合う分だけ下げるというのです。本当の理由は、バブルの頃の規模拡大が裏目に出ているだけなのですが、そんなことを納入業者にはおくびにも出さないのが、大企業の大企業たるゆえんなのでしょう。

 そんな具合ですから、今年の夏のボーナスもなんとか出ましたが、金額はバブル華やかなりし頃と比べたら半額近くになっていました。それでも、出るだけましと誰も文句を言いませんでした。まわりを見渡せば、ボーナスが全く出なかった会社もあったからです。

 それから、半年たって、会社の業績はますます雲行きがあやしくなってきています。このごろでは社内でボーナスという言葉が禁句になってしまったかのような雰囲気です。まだ、出ないと決まったわけではないのですが、こうゆう雰囲気は仕事をしていても気がめいります。社長が毎日のように銀行へ足を運んでいるのを知っていますので、この人に「なんとかしてくれ」と大声を出してもどうにもならないような気もします。零細会社の悲しさとあきらめたくはありませんが、不況の重さを感じます。

 こんな不況のなかにあっても、輸出が好調なメーカーなどは、昨年より黒字が大きく伸びています。でも、会社がもうかっているだけです。その証拠に、労災の発生件数がどんどん増えています。忙しいから、事故が起こるのではなく、コストを切り下げられて忙しくなっているから、安全対策が「時間のムダ」として切り捨てられているのです。

 労働基準監督署ですら、メーカーの安全担当者を集めて説明会を開きました。でも、外国人労働者は労災保険にも入っていませんから、事故の実態は、労基署の発表する数字は氷山の一角かもしれません。

 ある会社では、プレスの安全装置をはずして作業させていたために死亡事故が起きました。プレスのなかのごみを取ろうとした人に気がつかなかった別の人がボタンを押してしまったのです。即死です。安全装置がいちいち働いていては、作業能率が下がってしまうので、ひもでしばって止めていたというのです。

 とんでもない話です。会社も、安全装置をひもでしばることが、どんな意味をもつのか知っているはずです。けれど、危ないとわかっていても、そうまでして原価低減をしなければ、元請けから仕事をもらえなかったという事情がありました。輸出メーカーの黒字は、仕事にかかわるすべての人たちが必死になって実現したコストダウンの結果なのです。

 以前、この紙面の書籍紹介で知り、「この国は恐ろしい国」という本を読んでみました。その時は、活字のなかで感じたことが、この頃は骨身にしみる実感として受け止めています。


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