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多国籍企業について学習 

改革政治の本質がみえた 

岡本 三郎 


 最近、「多国籍企業――地球をわが手に」(石川博友著)を勉強する機会がありました。この本は一九七六年の発行ですが、主としてアメリカの多国籍企業を暴露しており、私にとっては、多国籍企業の実際を知るうえで、このうえなく勉強になりました。
 この本の書かれた時期から、二十年を経過した今、この多国籍企業といわれるものの実際は、目を見張るものがあると思います。以下、学習して得たことについて、触れてみます。

(1)多国籍企業の実態について
 一九七三年の世界の百大マネー・パワーを見ると、実に四十四が世界の多国籍企業であり、残りの五十六が国家というふうになっています。ランク十九番目のGM(米)の規模はチェコ、スウェーデン、オーストリアのGNPより大きく、ランク二十四番目のエクソン(米)は、デンマーク、南アフリカよりも大きく、二十七番目のフォード(米)はベルギーよりも大きいといった具合いです。この多国籍企業の大きさは一国の運命を左右できるほど大きくなっているのです。
 さらに注目すべきことは、過去二十年間の多国籍企業の実質成長率は年平均十%前後に達しており、諸国の年平均GNP成長率五%をはるかにしのいでいることです。
 ある専門家は、二十世紀末までには二百〜三百社の多国籍企業が四兆ドルを超える世界資産を保有し、世界の資産の五四%を所有するだろうと指摘しています。
 また、「世界の経営者」が、二十一世紀の国家モデルをどうとらえているかについて――
 「資本と財の自由な移動の保護者であり、労働市場の規制者・教育者であり、民間経済を均衡させるものであり、社会保障・失業保険などを通じて是正可能な不正を改善できる総意のまとめ役である。またそれは企業環境に不可欠な社会資本のすべて――きれいな空気、水、道路、学校、病院、通信、廃棄物処理、健康な労働力を維持していける環境管理者であり、また最も重要視されるのは安全保障の分野である」と述べています。
(2)通貨危機の元凶
 近年では国際通貨危機の元凶は、アメリカの多国籍企業であるという見方が強まっているとして、次のように述べています。
 「一九七一年末には、世界の短期流動資産は、約二千六百八十億ドルにのぼる。うちアメリカが大半の千八百九十六億ドルを支配している。二千六百八十億ドルという規模は、七一年末のアメリカの通貨量四千六百五十億ドルの六〇%になり、イギリス、西ドイツ、フランス、ベルギーの七一年末の通貨量合計二千六百九十億ドルにほぼ等しく全工業国の七一年末金・外貨準備高八百八十五億ドルの三倍以上であり、また、世界の七一年末総金・外貨準備高千二百二十億ドルの二倍を超えている」。
 そして二千六百八十億ドルの一%の二十七億ドルが為替相場の強弱に対応して動くだけで第一級の国際通貨危機を生み出すのに十分であるという。

(3)世界の政変と多国籍企業の深いかかわり
 ロッキード事件、ウォーターゲート事件、チリのアジェンデ政権の崩壊などは、アメリカの多国籍企業と深くかかわっていることはもちろんですが、IMF体制の崩壊(一九七一年)、ニクソンの訪中、訪ソ発表(一九七一年)など世界史を画する政変と多国籍企業の動向が深くかかわっている問題についてです。
 IMF体制下での為替固定相場制を困難にしたのは、多国籍企業の国境を越える巨額の資金の流れであるとし、さらにこの巨大企業が心配しているのは、各国通貨の平価変動の脅威よりも、為替管理のような統制や対外直接投資の規制であるという。
 また、ニクソンの対外政策は、まさに多国籍企業の政治戦略と一致するものであったとし、ベトナム戦争の終結とデタント、ニクソンの訪中、訪ソ発表の背後にある多国籍企業家のねらいについて言及しています。
 「戦争ではだれもが勝利をおさめることができず、すべての夢が脅かされる。国家は、軍事支配を進める。しかし、経済が支配的であるならば、世界の生産体制、金融市場、通信、資源に支配的シェアをもつ多国籍企業はいよいよ強力な政治的指導権を手に入れることができる」と。

 労働新聞の社説などによく「多国籍化した大企業が競争に打ち勝つために…」という言葉が出てきます。これだけだと抽象的すぎてよくわかりません。多国籍企業の実際状況をもっと暴露することによって、現在進められている「規制緩和」や「改革」の問題がより浮き彫りになってくると思います。


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