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 俺はあんたの組合の組合員だぞ

 俺の<強制配転>日誌 (5)

 飯岡 徹(上野郵便局)


〈時はさかのぼって「内示」から三日後の八月二十八日(木)〉

 さて、この問題に対する組合の対応についても書いておかねばならない。
 この日、俺は所属組合の地本(全逓東京地方本部)が配転問題でどんな対応をしているのか聞こうと思い、電話をかけた。この「人事交流」というものが行われるようになってから、前回の三月の配転でも、「転勤希望なんて出していないのに突然配転の辞令が来た」「『対話』で断ったのに配転された」と転勤者の多くが訴え、皆も俺も「組合はいったいこの問題にどう対処してきたのか」と思っていたからだ。
 電話の向こうから返ってきた答えはこうだ。
 
(1)昨年九月の人事交流以降、配転についての「本人合意」を外した。東京郵政局から「本人合意を外してほしい」との要請があり、組合は「やむなし」と判断したためだ。
(2)人事異動に関する合意文書(労働協約)は一切ない。
(3)この問題についての職員からの異議申し立ての機関は設置してない。

 話を進めていくと、「配転問題では全国的に現場から苦情が出ていることは知っている。しかし、人事権は当局のものだから何もできない」「組合としてはこの『人事交流』は必要なもの、と判断している」などという。
 俺はあきれかえった。「人事交流」が始まって以降、全国の現場からは「労働者は大変なストレスを強いられている」「熟練労働者を外して何がサービスか」などと全国大会でも問題点が指摘されてきた。「組合として何とかしろ」と要求が上がっているにもかかわらず、解決するどころか俺たちの知らないところで勝手に〈強制配転〉を推進させるような「本人合意外し」をしていたとは!
 俺は『対話』なんてしていない、と言うと「郵政局から上がってきた報告では飯岡君は『対話』したことになっている」と本部は言う。俺はあんたの組合員だぞ。本部は誰の言い分を聞く立場にあるんだ。当局の代理人か?
 「合意」がなくても配転させるというのなら、対話なんかしたって関係ないじゃないかと聞くと「事前に『対話』しないと、百人異動させるために三百人くらいに当たらなくてはならない。だから『対話』が必要となる。でも事前に対象者に打診すると異動が出来なくなる恐れもあるので『対話』もない場合がある」…。一瞬、俺は「間違えて郵政局に電話したんじゃないか」と思った。
 俺は東京地本とのやりとりをさっそく分会の仲間たちに伝えた。「えーっ!本人の合意なんて関係ないの?じゃあ、今まで『対話』どうのこうのって言ってたけど、管理者と話したって意味ねぇじゃん」と皆は異口同音に反応した。

 組合のこうした対応の背景は「民営化阻止」と「雇用を守る」ためには労働条件の切り下げはやむをえない、という根強い考え方にある。ズタズタになった労働条件の下で形ばかりの「公務員身分」を守って何になるというのか。労働者にとってみれば、気持ち良く働くことができれば民間だろうが、公務員だろうが関係ない。ここをはっきりさせておかないとだめだと俺は思っている。
 現にうちの郵便課では、俺たち職員だけでは手が足りないために三十人を超えるパート労働者を雇っていたが、最近、七桁区分機が導入されてパートが五十人に増えた。結局、試験を受けなければなれない公務員がパートという名の民間労働者にどんどん置き換えられている。事実上の民営化は現場で着々とすすんでいるのである。
 「民営化阻止」を口実に、組合も推進する側にまわってすすめられている〈強制配転〉。労働者には不安と苦しみを、地域の人々にはサービス低下をもたらす以外の何ものでもない。民営化をめぐる議論の下で、地域の郵便局から熟練労働者がいなくなっている。 


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