玖村芳男著「人民の大地―新釈・毛沢東の生涯」の読書感想文を労働新聞紙上で公募したところ、多数の応募が寄せられた。募集中ではあるが、その中から感想文を紹介する。
玖村芳男氏の「人民の大地」を読ませてもらった。氏があとがきで述べているように「人民の大地」はもともと「小説・毛沢東」とするつもりで書かれている。しかし、最近は毛沢東の私生活やスキャンダルを興味本位に取り扱う本が数多く出され、毛沢東を中傷している。そして多くの誤解が広められている。玖村氏はそうした事情を考慮して「人民の大地」とし、サブタイトルに「新釈・毛沢東の生涯」としたという。
「人民の大地」は、一言でいって毛沢東の通史である。もちろん、毛沢東の通史であるからには、中国革命の通史といってもよいかもしれない。革命運動の通史としても読みごたえがあるだけでなく、玖村氏は毛沢東の思想にも迫ろうとする。
氏は毛沢東の思想を「人民に奉仕する」ということに見いだす。毛沢東は、少年時代から「水滸伝」「三国史演義」などの古典に農民の主人公のいないことを奇妙に思う。そして、中国人民の抑圧された姿に、自分の人生は「人民に奉仕する」ことだと決意する。ここに氏は毛沢東の原点を見いだしているが、まさに的を得ている、と思った。
また、長征によって延安にたどり着いた毛沢東は根拠地をつくるが、政治思想を重視し「実践論」「矛盾論」を書いている。さらに「持久戦論」によって、抗日戦争の勝利を確信している。それは、日中両国の経済、政治、軍事力と国外からの支援など具体的条件を比較し、抗日戦争勝利の根拠を具体的に示している。まさに唯物弁証法を血肉として適用した典型であり、ここに革命家毛沢東の思想が見事にみてとれる。このように本書は唯物弁証法哲学を学ぶうえで非常に役立つものである。
また、中国革命の通史という点では、かなり「星火燎原」から引用されてはいるが、中国革命の歴史を知るうえでも興味深いものである。特に長征のなかで、紅軍兵士が「人民の軍隊」として、人民に奉仕する姿は感動的である。「針一本、糸一筋盗んではならない」という毛沢東の考え方が徹底し、その紅軍に中国人民が感動し、紅軍、共産党に支持が集まっていく。中国革命の勝利の基礎がここにもある。
最後に、この本を読んで考えさせられることは、わが国政府のことである。戦後五十年以上たった今も戦争責任を明確にせず、靖国神社公式参拝を繰り返す閣僚たち、侵略戦争を美化する政治家たち、こうした態度では、日中友好などあり得ない。
こうしたこともあわせて考えさせられたものであった。多くの皆さんにも一読をお勧めしたい。
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