970925


ヤマト運輸のアルバイト
いつも危険と隣りあわせ

華やかなCMのウラには4K現場

大門 直哉


 私はこの夏、一カ月間、ヤマト運輸で宅急便のアルバイトをやってみました。
 仕事は、朝七時半頃から自前の軽ワゴン車に、仕分けされた六十個〜九十個ぐらいの荷物を積んで、会社や個人宅に届ける簡単な仕事です。アルバイト料は、出来高払い制で、車持ち込みで、ガソリン代も自分で負担する場合は荷物一個につき百七十円です。ただし、車・ガソリン代を会社負担にすると、一個につき百三十円にしかなりません。もちろんお客さんが留守の場合は、一円ももらえません。
 私の場合は、車・ガソリンを自分負担で、いくつかの町内を回り、一日約七十個〜九十個(日当換算で、一万一千九百円〜一万五千三百円)を宅配します。少し慣れれば五時〜六時ごろまでには終わりますが、昼間の不在宅まで届けようとすれば、夜の八時〜九時頃までかかります。エレベータのない五階建ての団地などは、二十〜三十キロの荷物を抱えて登り降りするなど重労働です。
 この仕事で最もこわいのは交通事故です。なれないうちは地図を見ながらの配達なので、注意力が散漫になり、いつも危険と隣り合わせです。実際に「ヒヤッ」とすることが何度もありました。車は、ところどころ傷をつけましたが、人身事故を起こさなかったのが何よりでした。
 さて、ヤマト運輸の正社員は、毎朝、体操と朝礼を行っています。ある日、私が車に荷物を積んでいると、その横で、でっぷりと肥った会社のお偉いさんが、朝礼で「ここの営業所の実績はよいほうだが、これからは生き残りをかけてもっと厳しいときがくる。競争に負れば、あなた達はおまんまの食い上げだ」と労働者にハッパをかけていました。
 食うか食われるかの業界の争いに、こうして労働者が常に思想動員させられ、その犠牲にさらされています。トイレの便器の前には、事故を起こした労働者の名前が記され、事故の原因は、その労働者の不注意とされています。後日の商業新聞には、佐川急便とヤマト運輸の労働者が仕事を奪い合い、労働者どうしの暴力事件が多発していることを伝えていました。
 吉幾三の華やかなクール宅急便の宣伝やいきいきと働いているヤマト労働者の華やかなコマーシャルとは裏腹に、実際の労働現場は、こうした危険な状況に置かれているのです。労働も重い荷物を仕分け、集配することから腰を痛めている労働者が多くいます。ある朝、仕分け作業を終えた労働者が、「こうならないと本物でない」と腰から血の固まりを、抜き取った大きな円形の痛々しいあとを見せてくれました。
 特に、八月の御中元と十二月の御歳暮の時期は、大変仕事が増え、労働の負担も大きくなります。そうした時期に会社は一時的に委託と称して、一カ月間のアルバイトを雇うのです。正社員労働者からすると本当は、一カ月ではなく、少しでも長くアルバイトを続けてほしいそうです。それは、自分たちの仕事が少しでも軽減されるからです。それだけにアルバイト員に対しても親切な対応をしてくれます。しかし、会社は逆に、できれば正社員だけで仕事をこなしたいと考えているので、アルバイトにたいしてはいい加減な対応しかしません。
 わずか一カ月間という感性的な運輸労働者の現場の実態ですが、いずれにせよ運輸労働者は安い賃金で、誇りの持てない労働に従事し、危険で厳しい労働に耐えています。その不満は、アメリカの運輸労働者のように、闘いへと発展するでしょう。
 私は、宅急便のアルバイトを終え、いまは零細企業で旋盤工としてアルバイトをしています。現場は、汚い、危険、きつい、高齢化の4K職場です。
 また機会があれば、読者のみなさんに零細企業の労働者の実態をお知らせいたします。


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