970925


午前9時半 課長が俺を呼びに来た

俺の<強制配転>日誌 (2)

飯岡 徹(上野郵便局)


―局長室で―その1

 長い深夜勤務が終わった。いよいよ局長と会談だ。九時半に郵便課長が俺を呼びに来た。局長室へ行く途中「明けなのに大丈夫かい」と課長が言う。「大丈夫もクソもねぇよ。強制配転されようって時に理由も聞けないんじゃ話にもなんないだろ」俺は腹のたつのをおさえて言った。
 局長室に入ると応接用ソファーに案内された。俺が奥に座ると正面に局長が座り、郵便課長が局長の右にやや離れて座った。
 「『対話』で転勤の意思がないことを表明している。今回の内示に至った経過と転勤の理由をうかがいたい。今日の話を踏まえて、今後の俺の態度については弁護士と相談して決めるからそのつもりで」俺は口火を切った。
 「人事交流についてあなたが一貫して同調していないのは聞いている。『新昇格制度』の出来た経過や人事交流については聞いていると思うが、要するに同じ職場に十年、二十年いると組織が停滞してしまう。活性化のために必要なことなのでやる。人事交流をやって数年で全員入れ替えるつもりだ。そもそもこれらのことはあなたの組合が『職歴形成』のために職員に多くの経験をさせろ、と要求してきたものだ。あなたが転勤するところは上野だから通勤に不都合はないはずだ」局長が長々と説明する。
 「転勤したくない理由は『対話』で課長に言ってるでしょう。聞いてないの?」「あぁ、そうなんですか」と何とも間の抜けた局長の返事。いい加減なヤツ!と思いながら、「俺のいっていることが全然伝わっていないじゃないか。なんのための『対話』なんだ。意味ないじゃないか」
 課長が局長の代わりに「あなたが転勤したくないという理由は通勤ではなく、『地域活動』する上で不利益だからだと聞いている。そんな理由を聞いていたら人事というものは成り立たない」と言う。「俺がいっている『地域』っていうのをどう理解してんの?」と聞くと「地域でのボランティア活動とか…」と局長。何を勘違いしてんだ。俺はますます腹がたってきた。
 この間、当局は『地域に密着した郵便局』を繰りかえしスローガンに掲げてきた。そういいながら自分の町の様子を知ろうともせず、営業だ、売上げだと目前の成績のために職員の尻をタタき、その帳尻合わせに職員やアルバイトに自腹を切らせてでも、小包や切手の注文を押しつけてきた。二年ぐらいしかこの郵便局にいないような管理者に地域、地域なんていわれたくない。
 「あんた達ねぇ、『地域に開かれた郵便局』だとか『地域に根ざしたサービス』だとかいっているけど本当は何もわかっちゃいないんじゃないの? 俺はボランティア活動のことなんかいってないよ。『地域における郵便局の在り方』をいっているんだよ。ここでやり残した仕事があるから転勤したくないといっているんだ」「『地域に密着した郵便局』というのなら、荒川じゃなくてもできる。これまでの経験を生かして上野でやればいい」また課長が横から口をはさんできた。「俺はそれをするために自分の職場と同じ荒川区に引っ越してきたんだ。『地域に密着した郵便局』は、郵便課も集配課もその町の事情をよく知っていて、仕事に結びつけられる職員がいなかったら出来ないでしょ?」
 この人事交流という名の〈強制配転〉が行われてから各地で「誤配(配達まちがい)」が多発している。荒川区でも同様だ。そして、自分あての郵便物が他人に配達されているのではないかと心配する住民の声を聞くようになった。これも人をひんぱんに入れ替えた結果、地域に詳しい職員が少なくなったからだ。「職場の活性化」というが、実際には配転させられた多くの人が新しい職場に戸惑い、それまでつちかってきた経験を生かせずにやる気を失っているという全国的な報告も上がっている。
 「〈強制配転〉と受け取っていいのか」と俺。「〈強制配転〉ということではない」と何食わぬ顔で局長。「世間の常識では本人が納得しないのを〈強制配転〉というんだ。郵便局は世間と常識がちがうのか」。局長は黙った。
 「ところで局長は俺の『事業論文』を読んだことがありますか」俺は三年前に書いた郵政事業論文の話を持ちだした。当局は毎年、郵政事業にかんする活動や意見を論文という形で職員から公募している。課長が書いてくれ、というので俺は〈地域に開かれた郵便局〉をテーマに地域郵便局の在り方を書いた。局長は「読んでいない」というので俺は「読んで次回に感想を聞かせていただきたい」と手渡して局長室を出た。怒鳴りまくるのかと思っていた課長は拍子抜けしたようだった。
(つづく)


○対話:人事交流(配置転換)の必要性を説き、転勤の意思があるかどうかを確認するた
めに管理者が職員一人ひとりと話をすること。今回の局長との会談では、すれ違いざまの
立ち話でも『対話』をしたことになると発言。配転された職員の多くが、この『対話』す
らなく突然配転命令が出されたことが明らかとなっている。また、仮に配転先の希望があ
ってもほとんど無視されているのが実情。
○新昇格制度:能力給の郵政版。
○特殊室:普通の手紙やハガキとは別に書留郵便物だけを扱うための作業室。


Copyright(C) The Workers' Press 1996, 1997