970905


食費を削って病院へ行く時代に

医療の現場に「競争」が導入された

今井 美加(医療従事者)


 橋本内閣が進めている六つの改革の一つが「社会保障改革」です。その一つである「医療保険制度改革」は、かなりのスピードアップがなされています。国民健康保険料や社会保険料などのアップもされ続けていますが、なんといってもこの九月一日からの自己負担増や老人医療費、薬剤負担の「改正」でしょう。

 九月一日に病院にいった高齢者が、これまでの約三倍の負担になってびっくりしたというニュースがありました。しかし、これは医療制度改革のほんの手始めでしかありません。
 厚生省は八月七日、国民にさらに負担を強いる改革案を発表しました。でも、これにも驚いてはいられません。八月二十六日には、与党の医療保険制度改革協議会が高齢者向け独立地域保険制度の創設を提示しました。これは七十歳以上の高齢者に独自の保険制度を取り入れ、保険料を払う以外に一割負担を押しつけるというのが柱です。老人医療費を抑制し、地方自治体へ責任を押しつけ、医療現場へ負担を強いるものです。

 医療機関にとって七〇年代は、武見・元医師会長によって多くの医学部が新設され、医師を供給されるとともに、保険から医療機関に支払われる診療報酬が二ケタの伸びをし、「左うちわ」状態を作りだしました。しかしこの数年、地域密着型の中小病院にとっては、経営や内部体制の変化を実施せねばならず、苦しい時代をむかえています。

 まず、付き添い婦の廃止と看護制度改革がありました。これは現在でも看護婦を集めきらず、体制が整わないで四苦八苦している病院も多いようです。この制度改革の時、厚生省は人手不足で全国の四割から六割の病院が転廃業すると見込んでいました。つまり、小規模の病床しか持たない病院は、病床をなくし外来のみの診療所になり、地域の中小病院は老人対象の「療養型」や「老人病院」「老人保健施設」といわれる医療行為の少ない病院づくりを強いる方向にむかわせていたのです。

 さらに今年の四月、九月の診療報酬改正により、病院側にとってみれば、これまでは薬価でいくらか息をつないできたのが、それもなくなりました。百床前後の病院が一番苦しい状況に追い込まれただけです。

 介護保険導入について「『福祉』に競争原理を導入し『商品化』するものである」と批判の声が高まっていますが、医療ではすでに「競争」が取り入れられ、小さい病院は淘汰(とうた)されつつあるのです。

 医療制度改革は、今後、病院や病床数を削減し、医師の数を減らします。医療費の削減として、出来高制から包括制になっていきます。これは、いくら検査や診療しても患者さん一人当たりの決まった報酬しか病院には払われません。逆にろくな検査や治療をしなくても報酬は決まっていますから、いい加減な病院が出てくるでしょう。

 こうして高度医療を行えるのは大病院だけになり、近所の病院では、検査も受けられなくなりそうです。これまでも国は医療費の支出を抑え、地方自治体に責任と負担を強い、一部負担を小さな病院に負わせ、患者さんたちに大きな自己負担を強要してきました。

 しかし、それでは地域密着型のすぐに対応してくれる病院がなくなっていき、自己負担がまかないきれない国民は、病院にかかるために食費を抑えるか、病院にいかず病気を重症化させるだけです。

 国民が、一つひとつ勝ち取ってきた社会保障は、切り捨てられようとしています。国民の健康をおびやかし、小さい、弱い、それでもがんばっているものすべてを切り捨てるこの医療・介護改革に反対し、いっしょに立ち上がりましょう。


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