おれが働いている自動車工場ではラインが動きだしたら休むこともできない。有給休暇は四十日あるのに十日しか休めず、やってられないよ、こんな仕事。「ああ野麦峠」じゃあるまいし、扇風機一台でこの暑さをしのげるか。組合はあるんだけど、会社の言いなりだしなあ。労働者はなんといっても社会主義がいちばんいい。そういうことで、この夏は毎月こつこつ貯めた金を財布いっぱい(?)にして、中国へ行ってみた。
生きててよかった。青島ビールはうまい。北京ダックもうまかった。生きている喜びがわいてくる。
中国へ行く船中、バーで飲んだが、日本船籍で中国人労働者が八〇%から九〇%を占めているという。その人たちの給料は二万四千円くらいでこれは中国で働く人の三倍くらいだ。それでも日本の船員さんに比べれたらべらぼうに安い労働力だ。笑いがとまらぬ船主かな。
企業が海外へ出て、第三世界諸国で安い土地、安い労働力でぼろもうけできるはずだ。しかも国内では大企業がもうけるための六大改革があり、将来所得の五〇%は税金で消えるとか…。それに比べ社会主義では私的所有の廃止で福祉、社会保障にまわすと本に書いてある。いいなあ。
自動車業界ではトヨタが首位で、七千四百五十四億円の法人所得だそうだ。この金で福祉、社会保障の充実が十分にできる。しかし、この資本主義では、この法人税を三五%に引き下げると新聞には書いてある。貧乏人はケツの毛までむしりとられるということなのか。
船中で八年もかけて世界旅行した人の話を聞いた。多くの国で昼休みは、のんびりと木陰で休んでいる様子などを話してくれた。日本だけには過労死がある。働きすぎなんだ日本人は、と思った。
おれの工場では、販売店に出向していたA君は、ラインに入って一年で体重が十五キロ減った。B君は仕事していたら脳貧血で倒れた。幸い頭など打たないでよかったが。他にもラインの作業中いやになったのか途中で帰った人(何も言わずいなくなった)とか、おれが知っているだけで、こんな話がゴロゴロあるくらいだから、実態はもっとひどいのだろう。
今年、最初入ってきた人は三日目で辞めた。今入っている人が二人目になる。全体に辞めていく人が多いと他の職場からも聞こえてくる。
そうそう、最近、派遣労働者が入ってきた。従来は、他工場からの応援ということになるが、人が足りないらしい。季節工ではなく派遣労働者だ。三カ月が期限だから、雇用保険ももらえない。退職金、ボーナスもなく、だから日給を高くして一万二千円で、三カ月で九〇%の出勤率で十万の手当がもらえるそうだ。
船中で会った女性も、「職場で辞めて人の代わりに入ってくる人は派遣労働者だった」と言っていた。また「年俸制でノルマを達成できないと給料減だ」とも言っていた。全国的に安上がりの派遣労働者や外国人労働者が増えている。これは貧富の二極分化の始まりだろうか?
中国からの帰路、日本に近づくにつれ、「うわ、またあんな仕事をするのか」と思うといやでたまらなくなる。ああ、いやだなあと船中で知り合った青年に声かけると、やっぱり一緒だった。労働者は生活ぎりぎりで働き、ろくに余暇もないまま、労働意欲がわくはずがない。やっぱり労働意欲をもたらす社会主義がよいと思う。
「働くもののガイドブック」には次のように書かれている。
「社会主義、生産力の向上が生活向上につながり、また、失業や病気などによる生活破たんから人びとを救い出すことが可能になる」「社会主義では、賃金部分以上に働いた分が真に社会的、公共的にまわされるため、医療や福祉や余暇のための施設や学校など、結局は働く人びとの生活向上のために還元されるようになる」「労働がたんに生活の手段であるだけでなく、労働そのものが第一生命欲求となったのち、諸個人の全面的な発展にともなって、また、彼らの生産力も増大し、共同的富のあらゆる泉がいっそうわきでる」
トヨタを首位とする五百社くらいを国営化したらすばらしい財政が生まれるでしょうネ! そうなることを願いつつ、またラインで汗だらけで働いている。
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