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970825
チャイムが地獄へ呼び戻す
帰省費用でボーナスも残らず
秋田吾朗(自動車工場労働者)
長いようで短いお盆休みも終わって、今日からまた地獄のライン作業だ。休み明けは体が鈍ってしまっており、ラインについていくのが精一杯だ。今さらながらこんな非人間的な労働が存在することに腹が立ってくる。
しかし、休み明けといえど、会社はラインスピードを下げることはない。「お前たちを休ませたのは、もっともっと働かせるためだ!なまけぐせを取ってやるぞ!」とばかりに、ブンブンまわすのだ。チャップリンの「モダンタイムズ」の世界がここに再現されるのだ。
元気ぶっていた者も足が上がらなくなり、手に力が入らず部品など落とす者も出はじめた時、休憩時間を知らせるチャイムが鳴りだした。うまく設定してあるものだと思わず感心してしまう。
チャイムが鳴り終わると、あらかじめ決めてあったわけでもないのに疲れた仲間たちが一斉に足を引きずるようにして、助けを求めるようにしてミーティング室の机に集まってきた。
「疲れた!」「きつい!」「殺される!」と、口々に短い言葉を吐きながら、長椅子に並んで顔を見合せる。そのあとは言葉もない。それだけのことで慰められるのだ。
そして、我々を地獄へ呼び戻す作業開始のチャイムがまた鳴りだした。
故郷に帰る金もない
昼休みは、帰省みやげのまんじゅうやせんべいをミーティング室の机にならべての雑談に花が咲いた。この工場では、九州、四国など遠く県外からの人が多く、家族で帰省したAさん、Bさんの話が今日の話題の中心となった。
五人家族で、四年ぶりに熊本の実家に帰ったというAさんは、入院している母親と一人暮らしの父親を心配しての帰省で、みんなに相談するように話していた。Bさんは、弟夫婦と鹿児島までワゴン車で帰ったことの苦労話をおもしろおかしく話してくれた。
話題がAさんとBさんの旅費の比較になった時、突然Aさんが「これで、夏の一時金はおしまいや」と言いだした。新幹線などの交通費、家族兄弟や近所へのみやげなどで三十万円近く使い、家のローン、息子の学費を払ったらほとんど残らないと言う。そして「今度、故郷に帰る時はおふくろが死んだ時だ」と寂しそうに言う。
すると、黙って聞いていたCさんも「俺も帰りたいけど、金がないからしばらく帰っていないんだ」と言いだし、一同は顔を見合せ頷いた。
空前の利益あげる企業
会社は、円安差益で史上空前の利潤を上げたという。また、海外に次から次と新しい工場を建設し、さらにもうけようとしている。しかし、我々労働者は「故郷に帰る金もない」ほど貧しく、ベルトコンベアに追いまくられて働かされている。会社は「この好況は一時的なもの。状況は厳しく、今は将来に備えて底力をつける時」だとぬかしている。しかし、このままでは我々労働者は永久に貧しく、備えるべき将来もない。
ああ、またチャイムが鳴りだした。
がんばろう。いつでも故郷に帰ることのできる日まで。
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